海外親会社が日本子会社の役員・従業員にRSUやストックオプション(新株予約権)を付与しているケースは、外資系企業では珍しくありません。ここで日本側の経理担当者が直面するのが、「この株式報酬費用を日本子会社で損金算入できるのか」「損金にするには親会社への費用負担(リチャージ)が必要なのか」「源泉徴収は誰がいつ行うのか」という3つの疑問です。
本記事では、外資系企業の株式報酬について、法人側(損金算入と費用負担契約)の実務を整理します。RSU・ストックオプションを付与された個人側の課税は、別記事で詳しく扱う予定です。
外資系企業の株式報酬でまず整理すべきこと
日本の会社が自社の役員・従業員に株式報酬を付与する場合と、外資系企業のケースには決定的な違いがあります。それは「誰が付与し、誰が費用を負担するか」が分かれる点です。
外資系企業では、株式を付与するのは海外親会社(P Corp.)です。一方、その役員・従業員が実際に勤務して役務を提供しているのは日本子会社(S Japan K.K.)です。つまり、報酬を与える主体と、役務の提供を受ける主体が別法人になります。本記事は法人側(S Japan K.K. で損金算入できるか、そのために何が必要か)に絞って解説します。
株式報酬の種類|新株予約権と株式交付
株式報酬は、大きく新株予約権(ストックオプション)と株式交付(譲渡制限付株式など)の2つに分かれます。さらに、新株予約権は税制適格か非適格かで、株式交付は交付の時期(事前交付型か事後交付型か)で分かれるため、典型的な株式報酬は次の4類型に整理できます。
- 新株予約権:税制非適格ストックオプション
- 新株予約権:税制適格ストックオプション
- 株式交付(事前交付型):RS(継続勤務要件型)/PS(業績条件型)
- 株式交付(事後交付型):RSU(継続勤務要件型)/PSU(業績条件型)
どの類型に当たるかによって、個人側の課税時点だけでなく、法人側で損金算入できるかどうかも変わります。
| 区分 | 類型 | 個人側の課税(時点) | 法人側の損金算入可否 |
|---|---|---|---|
| 新株予約権 | 税制非適格ストックオプション | 権利行使時 | 費用負担(リチャージ)により損金算入可(後述) |
| 新株予約権 | 税制適格ストックオプション | 権利行使時は非課税・株式譲渡時に課税 | 原則不可(給与等課税事由が生じないため) |
| 株式交付(事前交付型) | RS/PS | 譲渡制限の解除時 | 費用負担(リチャージ)により損金算入可(後述) |
| 株式交付(事後交付型) | RSU/PSU | 株式の交付が確定する日 | 費用負担(リチャージ)により損金算入可(後述) |
法人側の損金算入の条件(費用負担契約の必要性など)は、後段の「日本子会社は株式報酬費用を損金算入できるか」で詳しく解説します。
新株予約権(ストックオプション):税制適格と非適格
ストックオプションは、あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で株式を取得できる権利(新株予約権)を付与し、役員・従業員が権利を行使して株式を取得する仕組みです。ここで重要なのが、税制適格か税制非適格かの区分です。
税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に、行使時の株価と権利行使価額との差額が、給与所得等として課税されます。法人側では、日本子会社が費用を負担(リチャージ)していれば、この給与等課税事由が生じた時点(権利行使時)で損金算入の対象となり得ます(費用負担の要否については後段で詳述します)。
税制適格ストックオプションでは、租税特別措置法の一定要件(付与対象者、権利行使期間、年間の権利行使価額の限度額など)を満たすことを条件に、権利行使時には課税されず、取得した株式を譲渡する時点まで課税が繰り延べられます。この場合、権利行使時に個人側で給与等課税事由が生じないため、法人側でも損金算入の対象となる費用は原則として発生しません。
ここで、税制適格ストックオプションの要件は、日本の会社法上の株式会社が新株予約権を発行することを前提としているという点です。外資系企業の外国親会社(P Corp.)は日本の会社法上の株式会社に該当しないため、外資系企業において外国親会社が付与する新株予約権は、税制適格ストックオプションには該当しないものと考えられます。したがって、外資系企業の従業員・役員が付与される親会社のストックオプションは、税制非適格として扱われると考えられます。
株式交付(譲渡制限付株式など):交付時期による類型
株式交付型は、株式そのものを報酬として渡す仕組みで、いつ株式を交付するかによって次の2つに分かれます。
事前交付型(特定譲渡制限付株式)は、先に譲渡制限の付いた株式を交付し、一定期間の勤務や業績条件を満たした時点で譲渡制限を解除するタイプです。譲渡制限が解除された時点で、給与所得等として課税されます。継続勤務を要件とするものがRS(リストリクテッド・ストック)、業績条件を要件とするものがPS(パフォーマンス・シェア)です。
事後交付型は、一定期間の勤務や業績条件を満たした後に、はじめて株式を交付するタイプです。課税時点は、株式が実際に交付された日ではなく、株式の交付が確定する日です。たとえば RSU において特定日までの勤務が交付の要件になっている場合には、その特定日が課税時点となります。継続勤務を要件とするものがRSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)、業績条件を要件とするものがPSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)です。
日本子会社は株式報酬費用を損金算入できるか
ここからが本記事の中心です。親会社が付与した株式報酬について、日本子会社(S Japan K.K.)は費用を損金に算入できるのでしょうか。
基本の考え方:個人の給与課税と法人の損金算入の対応関係
株式報酬費用の損金算入は、原則として、個人側で給与所得等として課税される時点に対応して、法人側で費用計上・損金算入するというものです。したがって、税制非適格ストックオプションであれば権利行使時、事後交付型であれば株式の交付が確定した時、というように、所得税の課税時点と法人税の損金算入時点が対応します。
費用を負担しなければ損金算入できない ― 費用負担契約(リチャージ)
外資系企業においては、株式報酬として交付されるのは日本子会社の株式ではなく、通常海外親会社の株式です。従って報酬を与える主体と、役務の提供を受ける主体が別法人になるため、日本子会社が株式報酬費用を損金算入するにあたっては日本子会社が株式報酬費用を負担していることが前提となると考えられます。親会社が自らの負担で子会社の役員・従業員に株式を付与し、子会社が一切の対価を負担していない場合、子会社には損金となる「費用」が存在しないためです。
そこで実務上必要になるのが、費用負担契約(リチャージ契約)です。親会社が付与した株式報酬相当額を、役務提供を受けている日本子会社が親会社に対して負担・精算することで、子会社において損金算入の対象となり得ます。
損金算入の時期
役員・従業員に付与された株式報酬は、法人税法54条・54条の2により、給与等課税事由が生じた日(個人側で課税される日)に損金算入することとされています。4類型ごとの損金算入時期は次のとおりです。
| 類型 | 損金算入時期 |
|---|---|
| 税制非適格ストックオプション | 権利行使時 |
| 税制適格ストックオプション | ―(給与等課税事由が生じないため、原則損金算入の対象なし) |
| 株式交付(事前交付型)RS/PS | 譲渡制限の解除日 |
| 株式交付(事後交付型)RSU/PSU | 株式の交付が確定する日 |
なお、損金算入額は類型ごとに算定方法が異なりますが、いずれの類型においても、法人側の損金算入額は、個人側で給与所得等として課税される金額と一致しないのが一般的です。
役員に付与する場合の追加論点
付与の対象が日本子会社の役員の場合には、費用負担(リチャージ)をしているだけでは損金算入できず、役員給与の損金不算入規定の検討が必要となります。
役員給与の損金算入3類型との関係
役員給与は、原則として損金不算入であり、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当してはじめて損金算入が認められます。株式報酬も同様です。
このうち定期同額給与は、毎月同額を支給する給与であるため、株式報酬は通常これに当てはまりません。また、業績連動給与の損金算入要件は、算定方法を有価証券報告書等で開示していることなどが前提とされており、外資系企業の海外親会社は日本で上場していないのが通常であることから、業績連動給与にも基本的には該当しません。
したがって、外資系企業の日本子会社が役員に株式報酬を付与する場合、実務上検討すべきは事前確定届出給与に該当するかどうかにほぼ絞られます。
株式報酬費用が事前確定届出給与に該当するかどうかについては、一定の新株予約権・譲渡制限付株式については届出不要で該当し損金算入が可能となりますが、詳細は割愛します。役員給与の損金算入については以下の記事もあわせてご確認ください。
なお、株式報酬費用が退職給与に該当する場合には、上記の定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の枠組みにかかわらず、不相当に高額な部分の金額を除き損金算入することができます。
費用負担契約(リチャージ契約)の実務
損金算入の前提となるリチャージについて、契約面の実務を整理します。
契約で定めるべき事項
費用負担契約では、少なくとも次の事項を明確にしておくことが望まれます。
- 対象となる役員・従業員の範囲
- 対象となる株式報酬(RSU・ストックオプション等)の種類
- 子会社が負担する金額の算定方法
- 負担額の支払・精算の時期と方法
これらが不明確なまま親会社の指示で費用が振り替えられているだけでは、損金算入の根拠として不十分となるおそれがあります。
源泉徴収の要否
株式報酬が個人側で給与所得等として課税される以上、源泉徴収の問題が避けられません。
親会社付与の株式報酬と源泉徴収義務
株式報酬に係る所得(税制非適格ストックオプションの権利行使益など)は給与所得等として課税されるため、その支払者に源泉徴収義務が生じます。ここで問題になるのが、源泉徴収義務は親会社・子会社のどちらに生じるのかという点です。
この点、国税庁の質疑応答事例(役員退職金制度の廃止に伴い親会社から発行される新株予約権の課税関係)では、以下のような場合には子会社を源泉徴収義務者とすることとしています。
- 子会社の役員に対する役務提供の対価として、子会社から役員へ報酬債権が付与され、これと引換に親会社の新株予約権が交付されるという構成が取られている場合、子会社をもって「給与等の支払をする者」として取り扱うのが相当と考えられています。この場合、新株予約権に係る経済的利益(権利行使益)は、子会社からその役員等に与えられた給付にあたり、親会社は子会社の指示に基づいて株式の交付を行っているに過ぎないとの整理により、子会社が源泉徴収義務者となります。
なお、外国親会社等が日本国内の役員・従業員に株式報酬を交付した場合、源泉徴収義務の有無とは別に、日本子会社(内国法人)に法定調書の提出義務が課される場合があります。詳細は次の「法定調書の提出義務」で解説します。
源泉徴収の方法
ストックオプション等の行使に際しては、株式の交付を受けるのみで、発行法人から役員等に対する金銭の支払は生じません。そのため、源泉徴収税額をどのように確保するかが実務上の問題になります。対応としては、次の2つの方法が考えられます。
- 源泉徴収税額を、源泉徴収義務者となる法人(本記事の想定では日本子会社)がいったん立て替えた上で、役員等本人から徴収する方法
- 源泉徴収税額相当額を法人が負担することとし、当該負担額を給与として取り扱う方法(この場合、源泉徴収税額についてグロスアップ計算を行う必要があり、当該給与が役員に対するものである場合には一般にこの源泉徴収税額相当額は損金不算入となります)
いずれの方法をとる場合でも、後日のトラブルを避けるため、源泉徴収税額の精算方法について、新株予約権の割当契約書等にあらかじめ記載しておくことが望ましいといえます。
法定調書の提出義務
外国親会社等が日本子会社の役員・従業員に株式報酬に係る株式等を付与した場合、日本子会社(内国法人)には、源泉徴収義務の有無にかかわらず、法定調書の提出義務が生じます。
どのような場合に提出が必要か
対象となるのは、外国親会社等(役員等が勤務する内国法人等と、株式の50%以上の資本関係がある外国法人)が発行する株式を無償または有利な価額で取得できる権利等に基づき、その役員等が株式・金銭その他の経済的利益の交付等を受けた場合です(所得税法228条の3の2)。税制非適格ストックオプション、RSU・RS など、本記事で扱う類型はいずれもこの対象に含まれ得ます。
なお、新株予約権の発行法人が日本の株式会社(内国法人)である場合には、別の調書「新株予約権の行使に関する調書」(所得税法228条の2)が必要となり、その提出義務者は発行法人(親法人)自身とされています。本記事が想定する外国親会社(P Corp.)のケースとは根拠条文・提出義務者が異なる点に注意してください。
提出者・提出先・提出期限
調書名は「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」です。提出義務者は、経済的利益の供与等を受けた役員等が勤務する内国法人(または外国法人の国内営業所等)の長、つまり日本子会社(S Japan K.K.)です。外国親会社(P Corp.)自身が提出するのではなく、日本子会社側が提出義務を負う点に注意が必要です。
提出先は日本子会社の所轄税務署、提出期限は経済的利益の供与等があった日の属する年の翌年3月31日です。
まとめ:実務チェックリスト
外資系企業の株式報酬費用について、法人側で確認すべきポイントを整理します。
- 付与された株式報酬が、新株予約権(税制適格・非適格ストックオプション)か、株式交付(事前交付型RS/PS、事後交付型RSU/PSU)のいずれの類型かによって、個人側の課税時点・法人側の損金算入時期が異なる。
- 適格ストックオプション以外の類型では日本子会社において損金算入が可能となるが、日本子会社が費用を負担していることが前提となることに加え、役員に付与する場合は、さらに事前確定届出給与(または退職給与)への該当性も判断をする必要がある。
- 海外親会社より付与される株式に関して、日本子会社が源泉徴収義務を負う場合や法定調書の提出義務が生じる可能性があるので留意が必要

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