外国法人が日本法人の株式を売却する際、「この売却益は日本で課税されるのか?」という問いは、M&Aや撤退・グループ再編のあらゆる場面で最初に確認すべき論点です。
原則として、外国法人が日本法人の株式を売却しても、その譲渡益に対して日本の法人税は課されません。しかし例外があります。「事業譲渡類似株式の譲渡」と「不動産関連法人の株式譲渡」に該当する場合、日本の国内源泉所得として課税が生じます。
本記事では、この二つの例外類型の判定要件と租税条約との関係、申告・源泉徴収の実務について解説します。
外国法人の株式譲渡と日本課税の基本構造
外国法人の課税のしくみ:国内源泉所得のみが課税対象
まず前提として、外国法人が日本で法人税の課税対象となるのは「国内源泉所得」に限られます(法人税法138条)。内国法人が全世界所得に課税されるのとは異なり、外国法人は日本国内で稼得した所得のうち、国内源泉所得として法令に列挙されたものだけが課税対象です。
株式の譲渡益は、この国内源泉所得に原則として含まれていません。外国法人が日本法人の株式を売却した場合、その譲渡益は通常、売主側の居住地国(本国)でのみ課税されます。
例外:日本で課税される四つのルート
ただし、次のいずれかに該当する場合は例外として国内源泉所得とされ、日本での課税が生じます。
| 類型 | 根拠 | 概要 |
|---|---|---|
| ① PE帰属所得 | 法人税法138条1項1号 | PEを通じた事業に帰属する株式譲渡益 |
| ② 事業譲渡類似株式 | 法人税法138条1項3号・施行令178条 | 25%保有・5%譲渡の要件を満たす場合 |
| ③ 不動産関連法人株式 | 法人税法138条1項3号・施行令178条 | 総資産の50%超が国内不動産の法人の株式 |
| ④ 買集め株式 | 法人税法138条1項3号・施行令178条 | 買い集めた株式をその発行法人等に譲渡して得る所得 |
①のPE帰属所得については記事15(PE判定)・記事16(PE課税実務)で詳しく解説しています。本記事では②・③の判定要件と実務対応を中心に説明します。
PEを有しない外国法人であっても②〜④に該当すれば日本での課税が生じます。PEの有無にかかわらず、確認が必要な論点です。
事業譲渡類似株式の譲渡
趣旨
事業譲渡類似株式のルールは、外国法人が日本法人の支配的な持分を保有し、それを第三者に譲渡するケースを「事業の実質的な移転」と捉え、日本での課税を認める趣旨で設けられています。
名称は「事業譲渡類似」ですが、実態は会社の支配権の移転を伴う大口の株式売却を対象とするルールです。
判定要件
以下の二つの要件をいずれも満たす場合に、国内源泉所得として日本で課税されます(法人税法138条1項3号、法人税法施行令178条)。
要件①:25%保有要件
譲渡事業年度終了の日以前3年以内のいずれかの時点において、その外国法人(および一定の特殊関係株主等を含む)が、譲渡対象の内国法人の発行済株式等の25%以上を保有していたこと。
要件②:5%譲渡要件
その事業年度において、その内国法人の発行済株式等の5%以上を譲渡すること。
【判定イメージ】
外国法人A社が日本法人B社の株式40%を保有しており、そのうち30%を第三者に売却するケースを考えます。
- 要件①:3年以内に25%以上保有していた → ✓(40%保有)
- 要件②:今回の譲渡で5%以上を譲渡する → ✓(30%譲渡)
→ 事業譲渡類似株式に該当。日本で課税。
課税の仕組み
要件を満たす場合、その株式譲渡益は日本の国内源泉所得として、外国法人に日本での法人税の申告義務が生じます。課税対象はあくまで株式の譲渡益(売却対価 − 取得原価・譲渡費用)であり、売却対価の全額ではありません。
PEを有しない外国法人であっても申告が必要になる点は見落としがちです。
グループ内再編での適用リスク
グループ内の持株再編であっても、形式的に要件を満たせばこのルールが適用される可能性があります。たとえば、海外グループ内で日本子会社の株主を親会社から中間持株会社(オランダ法人等)に付け替えるような取引も、要件の充足を慎重に確認する必要があります。国際税務DDの文脈では、独立した確認項目として扱うべき論点です。
不動産関連法人の株式譲渡
趣旨
日本の不動産を直接売却すれば日本で課税されます。しかし、その不動産を保有する法人の株式を売却すれば、原則として日本での課税を免れることができます。このような「不動産の株式化による課税逃れ」を防ぐために設けられたのが不動産関連法人の株式譲渡課税です。外国法人・非居住者に対する日本不動産所得への課税については記事19を参照ください。
判定要件
不動産関連法人の株式譲渡が国内源泉所得とされるには、法人側の資産要件と株主側の保有割合要件の両方を満たす必要があります。
【法人側の資産要件】
譲渡対象の法人について、譲渡の日から起算して365日前の日から譲渡直前までの間のいずれかの時点において、総資産の価額に占める国内不動産等の割合が50%以上であること。
「譲渡の直前」だけを見ればよいわけではなく、過去1年間にさかのぼった判定が必要な点に注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 国内にある土地・建物・借地権等の価額 |
| 分母 | 対象法人の総資産の価額 |
| 判定期間 | 譲渡前365日以内のいずれかの時点 |
⚠️ 時価評価に注意
日本の税法上、特段の定めがない限り「価額」は時価(公正な市場価値)を指すと解釈されます。そのため、含み益のある不動産を保有している法人の場合、帳簿上では不動産比率が50%未満であっても、時価で再評価した結果として50%以上となり、不動産関連法人に該当するリスクがあります。不動産の含み益が大きい法人の株式を譲渡する際は、時価ベースでの試算が不可欠です。
【株主側の保有割合要件】
不動産関連法人に該当しても、すべての株主の譲渡が課税対象になるわけではありません。譲渡事業年度の開始の日の前日において、特殊関係株主等で合計して以下の保有割合を超える株主による譲渡のみが課税対象となります。
| 対象株式の種類 | 保有割合要件 |
|---|---|
| 上場株式 | 5%超 |
| 非上場株式 | 2%超 |
小口の株主(上場株式なら5%以下、非上場株式なら2%以下)による譲渡は、不動産関連法人の株式であっても課税対象にはなりません。
課税の仕組み
法人側の資産要件と株主側の保有割合要件の両方を満たす場合、株式譲渡益の全体が国内源泉所得として課税されます(不動産に相当する部分だけではなく、譲渡益の全額が対象です)。
間接保有不動産の取り扱い
不動産関連法人が子会社を通じて間接的に国内不動産を保有している場合、その子会社株式を通じた間接保有分も分子に算入します。具体的には、国内不動産比率が50%以上である子会社の株式は、その価額を不動産として扱い分子に加えます。複数階層のグループ構造で不動産を保有している場合は、各階層での不動産割合の算定が必要です。
租税条約との関係
原則:源泉地国課税の排除
OECDモデル条約第13条(譲渡収益)の原則は、株式の譲渡から生じる利益は居住地国のみで課税されるというものです。日本が締結している多くの租税条約もこの原則に従っており、外国法人が日本法人の株式を売却した場合の譲渡益について、日本(源泉地国)での課税を原則として排除しています。
つまり、条約が適用されるケースでは、国内法上の事業譲渡類似・不動産関連法人のルールに該当するとしても、条約によって日本での課税が免除される可能性があります。
条約の例外条項:日本での課税が認められるケース
ただし、近年のOECDモデル条約および日本が締結している主要条約には、以下の例外が設けられているものがあります。
① 不動産化体株式の譲渡
総資産の50%超が不動産から構成される法人(不動産関連法人)の株式譲渡については、源泉地国(日本)でも課税できると定める条項です。OECDモデル条約2003年改訂以降に推奨されており、日本の新しい条約や改定済みの条約では多くの場合に盛り込まれています。
② 事業譲渡類似株式の譲渡
一定割合(例:25%)以上の株式を保有していた者による譲渡については、源泉地国でも課税できると定める条項です。ただし、日本が締結している条約ではこの条項が設けられていないものも多く、条約ごとの個別確認が不可欠です。
主要条約の概況(参考)
以下は参考情報であり、詳細は各条約の条文・議定書・交換公文の確認が必要です。
| 相手国 | 不動産化体株式の譲渡 | 事業譲渡類似株式の譲渡 |
|---|---|---|
| アメリカ | 課税 | 免税 |
| イギリス | 課税 | 免税 |
| オランダ | 課税 | 免税 |
| 中国 | 課税 | 課税 |
| シンガポール | 課税 | 課税 |
⚠️ 上記はいずれも一般的な構造を示した参考情報です。適用の可否は各条約の条文および議定書・交換公文によって異なります。実際の取引に際しては必ず条約原文を確認してください。
租税条約の適用手続き
株式譲渡益に対する条約の適用手続きは、利子・配当・ロイヤルティ等の源泉所得税の軽減・免除手続きとは根本的に異なります。
源泉所得税(利子・配当・ロイヤルティ等)の場合は、支払者(日本法人)が支払前に税務署へ届出書を提出する「事前届出方式」です。これに対し、株式譲渡益は申告納税方式の所得であり、外国法人自身が届出書を提出することで条約の適用を受ける仕組みになっています。
具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
① 提出書類
「租税条約に関する届出書(様式15)」を作成します。また、適用する租税条約に特典条項(LOB条項:Limitation on Benefits Article)が設けられている場合には、「特典条項に関する付表(様式17)」を添付します(国税庁 C1-77)。
② 提出方法
作成した書類を法人税の確定申告書(または中間申告書)に添付して所轄の税務署に提出します。なお、条約免除により申告書の提出自体が不要となる場合でも、事業年度終了の翌日から2か月以内にこの届出書を提出しなければなりません。
③ 居住者証明書の添付
条約の適用を受けるためには、居住地国の税務当局が発行する居住者証明書(Certificate of Residence)の添付が必要になる場合があります。取得に数週間〜数ヶ月かかる場合があるため、早めの準備が必要です。
④ 継続適用の場合
適用事業年度の開始前2年以内に開始した事業年度において同じ届出書を提出済みであり、内容に変更がない場合は、添付を省略することが可能です。
なお、届出書の様式・記載例については記事10:租税条約届出書の書き方・提出手順を参照してください。
申告義務と源泉徴収の実務
源泉徴収の有無
株式の売却代金については、買主側に源泉徴収義務は生じません。
源泉徴収が必要なのは、利子・配当・ロイヤルティ・給与等の特定の所得類型に限られており、株式譲渡代金はこれに含まれません。なお、土地・建物の直接譲渡には10.21%の源泉徴収制度がありますが、不動産関連法人の株式も含め「株式の譲渡代金」には源泉徴収制度はありません。
ただし、源泉徴収がないことは「申告しなくてよい」を意味しません。源泉徴収の有無と申告義務は別論点です。
外国法人側の申告義務
事業譲渡類似株式や不動産関連法人株式の譲渡益が国内源泉所得とされる場合、外国法人は原則として日本で法人税の確定申告書を提出する義務を負います。ただし、租税条約の免税規定を適用する場合には、その範囲に応じて手続きが異なります。
① 全ての所得が免税となる場合(申告義務なし)
外国法人が有する申告対象となる国内源泉所得の全部につき、租税条約の規定により法人税を課さないこととされる場合には、法人税の確定申告書を提出することを要しません。ただし、上述のとおりこの免税の適用を受けるためには、租税条約に関する届出書を提出する必要があります。
② 一部の所得に課税が残る場合(申告義務あり)
免税の対象とならない所得が一部でもある場合には、通常通り法人税の確定申告書を提出する必要があります。この場合、上述のとおり免税の適用を受ける所得について租税条約に関する届出書を確定申告書に添付して提出します。
実務判定フロー
外国法人が日本法人の株式を譲渡
↓
【Step 1】PEとの関連性
その株式はPEに帰属するか?
YES → PE帰属所得として法人税課税(記事16参照)
NO → Step 2へ
↓
【Step 2】事業譲渡類似の判定
①譲渡事業年度終了の日以前3年以内に25%以上保有していたか?(特殊関係株主等を含む合算)
②当該事業年度に5%以上を譲渡するか?
両方YES → 国内源泉所得 → Step 4へ(条約確認)
どちらかNO → Step 3へ
↓
【Step 3】不動産関連法人の判定
(法人側)譲渡前365日以内のいずれかの時点で総資産の50%超が国内不動産か?
NO → 原則として日本での課税なし
YES → (株主側)上場5%超 or 非上場2%超の保有があるか?
YES → 国内源泉所得 → Step 4へ(条約確認)
NO → 課税対象外
↓
【Step 4】租税条約の確認
売主の居住地国との間に条約があるか?
YES → 譲渡収益条項・例外条項(不動産化体株式・事業譲渡類似の取り扱い)を確認
NO → 国内法に従い申告・納税
まとめ
外国法人が日本法人の株式を譲渡する場合の日本課税は、原則「課税なし」ですが、事業譲渡類似と不動産関連法人の二つの例外が実務上は重要です。
| 論点 | 要点 |
|---|---|
| 事業譲渡類似 | 譲渡事業年度末から3年以内に25%以上保有 + 当年5%以上譲渡 → 譲渡益が国内源泉所得 |
| 不動産関連法人 | 譲渡前365日以内に総資産の50%超が国内不動産(時価ベース) + 上場5%超・非上場2%超の保有 → 譲渡益が国内源泉所得 |
| 租税条約 | 不動産化体株式は多くの条約で日本課税可。事業譲渡類似株式は条約ごとに要確認 |
| 源泉徴収 | 株式譲渡代金への源泉徴収はなし。外国法人が確定申告書を提出(条約免税の場合は届出書のみ) |
M&AやグループPMI(Post-Merger Integration)の場面では、事前の確認が不可欠な論点です。個別案件への対応については、クロスボーダー税務を専門とする税理士への相談をお勧めします。
なお、所得税法161条においても外国法人と同様に、非居住者個人による事業譲渡類似株式・不動産関連法人株式の譲渡が国内源泉所得とされる規定が設けられています。基本的な数値基準(25%/5%・50%/2%・5%)は共通ですが、判定期間の単位が「暦年」となるなど個人固有の取り扱いがあります。詳細は別記事で解説します。


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