日本法人設立後にやるべき税務手続きチェックリスト|届出書・期限・注意点を外資系向けに解説

法人税務

はじめに

日本法人の登記が完了した——しかし、それは手続きの終わりではなく、始まりです。

登記後には、税務署・都道府県・市区町村・年金事務所といった複数の機関に対して、それぞれ異なる期限で届出書を提出しなければなりません。期限を逃すと、青色申告の適用が受けられなくなったり、税制上の選択機会を永久に失ったりするリスクがあります。

本記事では、日本法人設立後に提出すべき届出書を、提出先・期限別に整理し、チェックリスト形式で解説します。設立初年度から親会社との取引が発生する外資系企業特有の論点(源泉税・移転価格・外為法)についても末尾でまとめています。

なお、「どの形態で進出するか」「資本構成をどうするか」といった設立前の意思決定フェーズの税務論点については、姉妹記事「日本法人設立前に決めるべき税務論点チェックリスト(記事21)」をご参照ください。本記事はその後の「実行フェーズ」を対象としています。

全体マップ:提出先と期限の概要

まず全体像を把握しましょう。設立後の届出は、税務署・都道府県・市区町村・年金事務所・外為法の5つの提出先に分かれます。

提出先主な届出(代表的なもの)期限の目安
税務署(消費税以外)法人設立届出書、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書 ほか設立後1〜3ヶ月以内が中心
税務署(消費税関係)インボイス登録申請書、簡易課税選択届出書 ほか設立事業年度末まで
都道府県・市区町村法人設立・設置届出書設立後1〜2ヶ月以内
年金事務所・労働基準監督署健康保険・厚生年金 新規適用届、労働保険 保険関係成立届設立後5日以内〜従業員採用後10日以内
日本銀行(外資系のみ)対内直接投資等に関する報告書(外為法)設立登記日から45日以内

各届出の詳細・期限・注意点は以降のセクションで解説します。全項目を一覧で確認したい場合は、末尾のチェックリストをご参照ください。

税務署への届出(国税)

法人設立届出書

提出期限:設立の日(登記日)から2ヶ月以内

法人を設立したことを税務署に通知するための書類です。提出しなくても罰則はありませんが、未提出のままでは税務署からの書類(申告書用紙・納付書等)が送付されず、申告・納付のトラブルに繋がる可能性があります。

主な添付書類は次の通りです。

  • 定款の写し(または寄附行為・規則等の写し)
  • 登記事項証明書(謄本)

青色申告承認申請書

提出期限:「設立の日から3ヶ月を経過した日」と「設立事業年度の終了の日」のいずれか早い日の前日

法人として青色申告の適用を受けるための申請書です。提出は任意ですが、実務上は全ての法人が提出すべき届出と言っても過言ではありません。青色申告を選択することで、欠損金の10年間繰越控除(法人税法第57条)等の適用が認められます。設立初年度に赤字が生じた場合でも、翌期以降の黒字と相殺できるため、外資系企業の初期投資局面では特に重要です。

注意:本申請書を期限内に提出しなかった場合、設立第1期から青色申告の適用を受けることができません。期限を逃した場合の影響が大きいため、設立後速やかに対応することが求められます。

給与支払事務所等の開設届出書

提出期限:給与支払事務所等を開設した日から1ヶ月以内

役員報酬や給与を支払う事業所を設けた場合に提出します。役員報酬のみの支払いでも提出が必要です。源泉徴収した所得税は、原則として翌月10日までに納付します。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

提出期限:随時(申請月の翌月分から適用)

源泉徴収した所得税は原則「毎月10日までに納付」ですが、給与の支給人員が常時10人未満の場合は、この申請書を提出することで、年2回(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日)にまとめて納付することができます。

設立直後で従業員が少ない外資系企業にとっては、経理業務の負担軽減につながる実用的な特例です。ただし、従業員が増えて10人以上になった時点で特例の適用は失われます。

消費税関連の届出(国税)

消費税に関する届出を検討するにあたり、まず「課税事業者になるか・免税のままか」という前提を整理する必要があります。この判定には、インボイス(適格請求書)発行事業者として登録するかどうかが最初の分岐点となります。なお、消費税の免税・課税の判定ロジック(資本金・特定新規設立法人の特例・グループ規模による判定)については、設立前の段階で確認すべき論点として記事21で詳しく解説しています。本記事では判定結果を前提に、設立後に提出すべき届出書の種類と手続きを中心に説明します。

適格請求書発行事業者の登録申請書(インボイス登録)

設立後の消費税の取り扱いを考えるうえで、最初に確認すべきなのはインボイス(適格請求書)発行事業者として登録するかどうかです。インボイス登録を行うと、登録日以降は資本金の額や設立期数にかかわらず課税事業者となります。BtoB取引が中心の外資系企業において、取引先からインボイスの発行を求められる場合などにはインボイス登録が必要となります。

提出期限(新設法人の特例):設立初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を、設立事業年度の末日までに提出した場合、設立日まで遡って登録を受けることができます。設立初日からインボイスを発行する必要がある外資系企業では、この特例を活用することとなります。

課税事業者選択届出書との関係:インボイス登録にあたっては課税事業者であることが前提となります。したがって設立時に免税事業者が登録を受ける場合は、原則として後述する課税事業者選択届出書の提出が必要となります。ただし、経過措置により2029年9月30日(令和11年9月30日)までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、課税事業者選択届出書の提出なしに課税事業者となりかつインボイス登録することができます(28年改正法附則第44条第4項)。この経過措置の期限後に免税事業者がインボイス登録を受ける場合は、インボイス登録申請書と合わせて課税事業者選択届出書の提出が必要となる点に注意が必要です。

消費税課税事業者選択届出書

提出期限:設立事業年度については設立事業年度末まで

免税事業者であっても、あえて課税事業者を選択することが有利・または必要となる場面があります。

  • 輸出売上が主体の場合:輸出売上が主体の場合、課税事業者となって消費税の確定申告をすることで、消費税の還付を受けることができます。
  • 設備投資が多い初年度:多額の設備投資にかかる消費税還付を受けるために課税事業者を選択するケースがあります。
  • 2029年10月以降にインボイス登録を受ける場合:上記(1)の経過措置の期限後に免税事業者がインボイス登録を受ける場合は、インボイス登録申請書と合わせて本届出書の提出が必要となります。

一度提出すると原則として2年間は免税事業者に戻れない点に注意が必要です。

消費税簡易課税制度選択届出書

提出期限:第1期から適用の場合・第2期から適用の場合いずれも設立事業年度末まで

簡易課税制度とは、仕入税額控除の計算を実際の仕入に基づかず、課税売上高に業種ごとのみなし仕入率を乗じて計算する制度です(消費税法第37条)。

適用要件:2期前の課税売上高が5,000万円以下であること。

設立第1期・第2期は2期前の課税売上高が存在しないため、この要件は自動的に満たされます。したがって、課税事業者であれば第1期・第2期は原則として簡易課税を選択できます

みなし仕入率は事業区分(第一種〜第六種)によって90%〜40%と幅があります。第1期・第2期ともに届出期限は第1期末となるため、第1期末近辺で実績をもとに2期分を試算したうえで適用の要否を判断することをお勧めします。

なお、簡易課税制度を選択した場合は、適用開始から2年間は原則課税に戻ることができません。有利不利の判定は慎重に行う必要があります。

棚卸資産・減価償却資産に関する届出(国税)

棚卸資産の評価方法の届出書

提出期限:設立第1期の確定申告書の提出期限まで

棚卸資産(在庫)をどのような方法で期末評価するかを届け出る書類です。届出をしない場合は、法定評価方法である最終仕入原価法による原価法が自動的に適用されます。

選択できる主な評価方法は以下の通りです(原価法/低価法)。

  • 個別法
  • 先入先出法
  • 総平均法
  • 移動平均法
  • 最終仕入原価法(届出なしの場合の法定方法)
  • 売価還元法
  • 低価法(上記原価法のいずれかと時価を比較し、低い方で評価)

会計上採用している評価方法が最終仕入原価法でない場合、届出をしないと税会不一致が生じ、申告書上で税務調整が必要になります。実務上は、会計上採用している評価方法を税務上も選択することで税会一致を図るケースが多く見られます。

減価償却資産の償却方法の届出書

提出期限:設立第1期の確定申告書の提出期限まで

建物・機械・車両等の減価償却資産について、税法上の償却方法を届け出る書類です。資産の種類によって選択できる方法が異なります。

  • 建物・建物付属設備・構築物:定額法のみ(選択の余地なし)
  • 機械装置・車両・工具等:定額法または定率法を選択可能。届出なしの場合の法定方法は定率法

定額法は毎年一定額を費用計上する方法、定率法は未償却残高に一定率を乗じる方法で、定率法は初年度ほど償却費が大きくなります。

機械装置・車両・工具等については、届出なしの場合の法定方法である定率法の方が初期に多く費用計上できるため、あえて定額法に変更する本届出書を提出する実務上の意義は薄いケースがほとんどです。

都道府県・市区町村への届出(地方税)

都道府県税事務所および市区町村役場にも、法人設立後に届出書を提出する必要があります。

提出先期限の目安
都道府県税事務所設立後1〜2ヶ月以内(自治体により異なる)
市区町村役場同上

都道府県・市区町村への届出書は、国税の法人設立届出書と内容は類似していますが、様式が異なります。

東京都の場合:都税事務所(主税局)へ届出書を提出することで、東京23区内の市区町村への届出を兼ねることができます。都内に複数の事業所を有する場合は、各事業所の所在する都税事務所に届出が必要です。

なお、東京都主税局への届出期限は「法人設立の日から15日以内」と、国税の2ヶ月以内よりも短く設定されています。設立後の最初の週に優先的に対応することをお勧めします。

社会保険・労働保険の手続き(税務周辺)

税務署への届出ではありませんが、設立後の実務では税務手続きとセットで対応が求められるため、概要を整理します。

年金事務所

健康保険・厚生年金保険 新規適用届

  • 提出期限:設立後5日以内
  • 内容:法人として社会保険に加入する旨の届出

新規適用届の他に、健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(役員・従業員ごとの加入届)や、扶養家族がいる場合は健康保険 被扶養者(異動)届も併せて提出します。

労働基準監督署

労働保険 保険関係成立届

  • 提出期限:従業員採用後10日以内
  • 内容:雇用保険・労災保険への加入手続き
  • 役員のみで従業員がいない場合は提出不要

保険関係成立届の他に、労働保険 概算保険料申告書(保険料の概算額を申告・納付)、適用事業報告書(労働者を使用する事業所であることの報告)、常時10人以上の従業員がいる場合は就業規則(変更)届も提出が必要です。

ハローワーク(公共職業安定所)

雇用保険適用事業所設置届

  • 提出期限:設置の日の翌日から10日以内
  • 内容:雇用保険の適用事業所として登録するための届出

雇用保険被保険者資格取得届

  • 提出期限:資格取得の事実があった月の翌月10日まで
  • 内容:雇用保険の被保険者となる従業員ごとに提出

外資系企業に固有の論点

外為法に基づく対日銀事後報告

期限:設立登記日から45日以内

外資系企業が日本に子会社を設立する場合、多くのケースで外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく対内直接投資の事後報告が必要です。

具体的には、外国親会社(外国法人または非居住者)が出資比率10%以上で日本法人を設立した場合、設立登記日から45日以内に日本銀行を経由して財務大臣・事業所管大臣に報告書を提出しなければなりません。

この手続きは税務の届出ではないため税理士の所管外となりますが、設立後の重要な法令上の義務です。業種によっては事後報告ではなく事前届出が必要なケース(安全保障に関係する指定業種等)もあるため、設立前に確認が必要です(→記事21参照)。

親会社への支払いに伴う租税条約届出書の事前提出

設立後、親会社に対してロイヤリティ・マネジメントフィー・利子等を支払う場合、最初の支払い前に租税条約届出書を税務署に提出しておく必要があります。

租税条約届出書を提出せずに支払いをした場合、租税条約による軽減税率が適用されず、国内法の源泉税率20.42%で源泉徴収する義務が生じます。後から誤りを修正するための還付手続きは、実務上相当の事務負担と時間を要します。

設立後、最初の支払いが発生するまでに届出を完了させることが重要です(→詳しくは記事10「租税条約届出書の書き方・提出手順」参照)。

移転価格文書化方針の初期確認

設立初年度から親会社との間でロイヤリティ・棚卸資産・役務提供等の取引が発生する場合、独立企業間価格の設定方針を初年度中に確定させることが重要です。

特に以下の要件に該当する場合は、移転価格文書化(ローカルファイル)の義務が生じます(租税特別措置法第66条の4第6項)。

  • 国外関連取引の総額が年間50億円以上
  • または国外関連取引のうち無形資産取引が年間3億円以上

これらの要件に該当しない中小規模の外資系企業であっても、移転価格課税リスクを回避するうえで、取引の根拠となる契約書・役務提供の実態証明・価格算定の根拠資料を設立初年度から整備しておくことを強く推奨します。

チェックリスト(まとめ)

設立後に対応すべき届出・手続きを期限順に一覧にまとめます。

提出先書類名期限備考
年金事務所健康保険・厚生年金 新規適用届設立後5日以内
都道府県税事務所(東京は都税事務所)法人設立・設置届出書設立後15日以内(東京都)〜2ヶ月以内(自治体により異なる)東京23区は市区町村分を兼ねる
市区町村役場法人設立届出書自治体により異なる(概ね設立後1〜2ヶ月以内)東京23区は不要
日本銀行(外資系のみ)対内直接投資等に関する報告書設立登記日から45日以内外為法上の義務
税務署法人設立届出書設立後2ヶ月以内定款写し・謄本を添付
税務署青色申告承認申請書設立後3ヶ月 or 第1期末の前日(早い方)期限を逃すと第1期から適用不可
税務署(親会社への支払い前)租税条約届出書最初の支払い前まで外資系特有。提出漏れで20.42%源泉が発生
税務署給与支払事務所等の開設届出書給与支払事務所等を開設した日から1ヶ月以内役員報酬のみでも提出が必要
労働基準監督署労働保険 保険関係成立届従業員採用後10日以内役員のみの場合は不要
ハローワーク雇用保険適用事業所設置届設置の翌日から10日以内従業員採用後
ハローワーク雇用保険被保険者資格取得届資格取得の翌月10日まで従業員ごとに提出
税務署源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書随時給与支給人員が常時10人未満が要件
税務署適格請求書発行事業者登録申請書設立事業年度末まで(新設法人特例)BtoB取引がある場合は早期に申請
税務署消費税課税事業者選択届出書設立事業年度末まで輸出業・設備投資が多い場合等に検討
税務署消費税簡易課税制度選択届出書設立事業年度末まで第1期・2期は要件を自動充足
税務署棚卸資産の評価方法の届出書第1期確定申告書の提出期限まで法定方法(最終仕入原価法)以外を選ぶ場合
税務署減価償却資産の償却方法の届出書第1期確定申告書の提出期限まで法定方法以外を選ぶ場合

おわりに

日本法人設立後の届出書は種類が多く、提出先・期限がそれぞれ異なります。特に青色申告承認申請書東京都税事務所への届出は期限が短いため、設立直後の最優先事項として対応することが重要です。

また外資系企業では、国内法人にはない外為法上の日銀届出や、設立初年度から生じ得る親会社への支払いに伴う源泉税・租税条約届出が重なります。税理士・行政書士・社労士が連携した体制を早期に整えることで、初期の手続き漏れを防ぐことができます。

設立後の税務は「届出が終わり」ではなく、「定期申告・源泉納付・消費税申告・本社レポーティング」と続きます。初期設計を正しく行うことが、その後の実務負担を大きく左右します。設立直後の段階で、外資系企業の税務に精通した専門家への相談をご検討ください。

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