海外グループ会社や外国法人に対してソフトウェアのライセンスフィーやSaaS利用料を支払う際、源泉税が必要かどうか迷うケースは少なくありません。
判断の鍵は、その支払いが「著作権の使用料」に該当するかどうかです。結論から言えば、自己利用目的のソフトウェア利用料は原則としてロイヤリティには該当せず、源泉税は不要となるケースがほとんどです。ただし、複製・配布・改変といった著作権上の権利の許諾を受けている場合はロイヤリティに該当し、源泉税の対象となります。
AWS・Office365・SAPといったクラウドサービスの利用料と、ソフトウェアの複製・配布権のライセンス料では、税務上の取り扱いが異なります。本記事では、ソフトウェア使用料・ライセンスフィー・SaaS利用料に対する源泉税の判断基準を、国内法とOECDモデル条約コメンタリーの両面から整理します。
国内法上の整理
所得税法は、国内において業務を行う者が外国法人に対して支払う著作権(出版権および著作隣接権その他これに準ずるものを含む)の使用料を「国内源泉所得」として定め、源泉徴収の対象としています(所得税法161条1項11号)。
源泉徴収税率は20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)です。
ソフトウェアはプログラムの著作物として著作権法上の保護を受けます(著作権法10条1項9号)。したがって、ソフトウェアに関する支払いは原則として著作権の使用料に該当しうるのですが、実際には取引の内容によって著作権の使用料に当たるかどうかの判断が難しく、これが実務上の論点となります。
OECDモデル条約コメンタリー第12条による判断基準
租税条約の解釈において、OECDモデル条約コメンタリーは「解釈の補足的な手段として参照されるべき」と位置づけられており(グラクソ事件最高裁判決・平成21年)、実務上の重要な判断根拠となっています。
コメンタリー第12条は、ソフトウェアに関する支払いの性格は受領者が取得した権利の性質によって決まると定めています。具体的には、著作権の権利を取得したのか、それとも単にプログラムの複製物を取得したのかが判断の核心です。
これを踏まえ、コメンタリーは以下の4類型を示しています。
著作権の部分的権利を取得する場合 → ロイヤリティ
ライセンスがなければ著作権侵害となる行為(複製・配布・改変・公開表示等)を行う権利を許諾された場合の支払いはロイヤリティに該当します。たとえば、ソフトウェアを組み込んだ製品を複製・配布する権利のライセンスや、プログラムを改変・公開表示する権利のライセンスが典型例です。
エンドユーザーとして利用する場合 → 事業所得
取得した権利がプログラムを操作するために必要な範囲(ハードドライブへのコピー、アーカイブ目的のコピー等)にとどまる場合、その権利は税務上の取引性格の分析において無視すべきとされ、支払いは第7条(事業所得)として扱われます。
いわゆる「サイトライセンス」「エンタープライズライセンス」「ネットワークライセンス」も、複製がプログラムの操作目的に限定される限り、同様に事業所得として扱われます。なお、ソフトウェアの転送方法(物理媒体か電子的配信か)は判断に影響しません。
流通業者として配布する場合 → 事業所得
流通業者がソフトウェアの複製権なしに配布権のみを取得する場合も、支払いは事業所得として扱われます。電子的配信の場合も同様です。
ノウハウ・秘密情報の提供を受ける場合 → ロイヤリティ
プログラムの基礎となるアイデアや原理(ロジック、アルゴリズム、プログラミング言語・技法等)に関する情報の提供を受ける場合、秘密方式や産業上・商業上の経験に関する情報の使用料としてロイヤリティに該当しうるとされます。
これらを表にまとめると以下のとおりです。
| 取引類型 | 具体例 | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 著作権の部分的権利取得 | 複製・配布・改変権のライセンス | ロイヤリティ(第12条) |
| エンドユーザー利用 | 操作目的のコピーのみ、サイトライセンス | 事業所得(第7条) |
| 流通業者による配布 | 複製権なしの配布権のみ | 事業所得(第7条) |
| ノウハウ・秘密情報の提供 | アルゴリズム・技法等の情報提供 | ロイヤリティ(第12条) |
デジタル製品・SaaSへの適用
コメンタリーはソフトウェアに関する上記原則が画像・音声・テキスト等の他のデジタル製品にも適用されると明示しています。
判断の核心は「支払いが本質的に何の対価であるか」です。
自己使用目的でのデジタルコンテンツのダウンロードは、データの取得が本質であり、ロイヤリティではなく事業所得として扱われます。ダウンロードに伴うコピー行為は、データを取得・保存するための手段に過ぎず、支払いの性格を決定する上で重要ではないとされています。
一方、デジタル製品の著作権を利用する権利の付与が支払いの本質である場合はロイヤリティに該当します。たとえば出版社が書籍の表紙に使用する目的で画像の複製・配布権を取得する場合がこれにあたります。
SaaS・クラウドサービスについては、コメンタリーに直接の記述はありませんが、上記の論理の延長として、ブラウザ経由でサービスを利用するだけで複製を伴わない形態は、支払いの本質がサービスの利用であり著作権の利用ではないため、ロイヤリティには該当しないという解釈が実務上のコンセンサスとなっています。AWS・Office365・Salesforceといったクラウドサービスの利用料について、源泉徴収の必要はないと考えられます。
ただし、この点については明文の法令根拠があるわけではなく、コメンタリーの解釈に依拠した実務上の取り扱いであることは留意が必要です。
租税条約の適用
支払いがロイヤリティに該当すると判断された場合、租税条約のロイヤリティ条項(OECDモデル条約第12条)が適用され、各国の条約で定められた限度税率が適用されます。
租税条約の適用を受けるためには、支払いを受ける外国法人が支払いの前日までに届出書(様式3:使用料に対する所得税及び復興特別所得税の軽減・免除)を、支払者である日本法人を経由して所轄税務署に提出する必要があります。届出手続きの詳細は記事10:租税条約届出書の書き方・提出手順をご参照ください。
なお、支払いがロイヤリティではなく事業所得に該当する場合は、マネジメントフィーと同様に事業所得条項(第7条)が適用され、PEがなければ源泉免除となります。
マネジメントフィーとの区分
ソフトウェアの導入・運用に伴い、技術サポートや保守サービスの対価が別途発生する場合があります。このような人的役務の提供に対する対価は、ソフトウェア使用料(著作権使用料)ではなくマネジメントフィー(人的役務提供の対価)として扱われる可能性があり、適用される税率や届出様式が異なります。
マネジメントフィーの源泉税については記事7:マネジメントフィーの源泉税をご参照ください。
まとめ
ソフトウェア使用料・ライセンスフィー・SaaS利用料の源泉税について、ポイントを整理します。
- 判断の核心は「支払いが著作権の使用料に該当するか」であり、取得した権利の性質で決まる
- 複製・配布・改変権等の著作権を利用する権利の許諾 → ロイヤリティ(源泉税あり)
- 操作目的のエンドユーザー利用、サイトライセンス → 事業所得(PEなければ源泉免除)
- SaaS・クラウドサービスの利用料 → 実務上は源泉不要とする扱いが一般的
- ロイヤリティに該当する場合は届出書(様式3)の提出で租税条約の限度税率が適用
取引の実態が不明確な場合や判断に迷う場合は、税務専門家にご相談ください。
次回は非居住者給与の源泉税を解説します。海外赴任者・短期出張者の給与課税、183日ルール(短期滞在者免税)の適用要件など、外資系企業の人事・経理担当者が直面しやすい論点を整理します。


コメント