源泉税の誤りに気づいたら|租税条約の届出漏れへの対処と加算税を解説

源泉税・租税条約

外資系企業の経理担当者にとって、源泉税の誤りは「気づいたときにはもう手遅れ」と感じやすいテーマです。しかし、誤りを発見したタイミングと対応次第で、ペナルティの大きさは大きく変わります。

この記事では、非居住者・外国法人への支払いに関する源泉税の誤りを発見した場合の対処法を解説します。外資系企業に多い租税条約の届出漏れへの実務対応と、受給者への求償権についても取り上げます。

源泉税の「誤り」は2つのパターンがある

非居住者・外国法人への支払いに関する源泉税の誤りは、大きく2つのパターンに分類されます。

パターン① 源泉徴収漏れ(過少納付)

ロイヤルティ・マネジメントフィー・利子などの支払いについて、そもそも源泉徴収を行っていなかったケースです。外資系企業ではこれに加えて、租税条約の届出書(租税条約に関する届出書)も提出していないという状況が多く重なります。結果として、本来納付すべき税額が未納の「過少納付」の状態になります。

パターン② 国内法税率の適用による過大源泉徴収(過大納付)

租税条約の届出書を提出しないまま、国内法の税率(20.42%)で源泉徴収を行ったケースです。本来であれば租税条約の軽減税率(例:10%)が適用されるため、差額分が「過大納付」となっています。

以下では、この2つのパターンを前提に解説を進めます。

是正の基本:自主是正か税務調査発覚かで大きく違う

源泉税に「修正申告」はない

源泉所得税は、支払のつど徴収・納付する仕組みであるため、通常の法人税・消費税のような修正申告書を提出する制度がありません。不足額を発見した場合は、所得税徴収高計算書(納付書)に不足額を記載して期限後納付することで是正します。

不納付加算税の仕組み

源泉税の納付が法定納期限(原則:支払月の翌月10日)を過ぎると、不納付加算税が課されます。

状況税率
税務調査の事前通知前に自主的に期限後納付した場合5%
税務調査の事前通知後または調査で発覚した場合10%

自主是正であれば税率が半分になります。誤りに気づいたら、調査の事前通知を受ける前に動くことがペナルティ最小化の最大のポイントです。

延滞税

延滞税は、法定納期限の翌日から完納日まで日割りで課されます。現在は特例基準割合に基づき年2〜9%程度の範囲で適用されます。

加算税・延滞税は受給者に求償できない

不納付加算税・延滞税はいずれも源泉徴収義務者(支払者)に課されるものであり、受給者(非居住者・外国法人)への求償はできないものと考えられます。また、損金算入も認められません。

租税条約の届出漏れがある場合の対応

外資系企業でとくに多い、租税条約の届出書を提出しないまま支払っていたケースの対応を、パターン別に解説します。

届出書の提出は軽減税率の「効力要件」ではない

国税庁タックスアンサーの原則的な取り扱いでは、届出書を提出していない場合は国内法税率(20.42%)で源泉徴収を行い、差額は受給者が還付請求で取り戻すとされています。

しかし、東京地裁平成27年5月28日判決は、「租税条約による税の軽減または免除を受けることができるか否かについては(中略)届出書を提出しなかったことをもって、適用を否定することはできない」と判示しました。届出書の提出は軽減税率適用の「手続き要件」にとどまり、「効力要件」ではないという解釈です。

この判決を踏まえると、事後的に届出書を取得・提出した上で、条約限度税率を適用した税額を納付する対応でよいと考えられます。

なお、税務署から「まず20.42%で納付してから還付請求してほしい」と指導されるケースがあります。最終的に納付することとなる源泉税の本税の額はどちらの方法でも変わりませんが、不納付加算税・延滞税の計算基礎が変わる(20.42%で納付した場合、加算税の対象額が大きくなる)ため、上記裁判例を根拠に抗弁することも一案です。

パターン①:源泉徴収漏れ(過少納付)の場合

届出書の提出も源泉徴収も行っていなかった場合、以下の手順で是正します。

  1. 受領者(海外親会社等)から租税条約に関する届出書を取得する
  2. 支払者(日本法人)が所轄税務署長に届出書を提出する
  3. 条約限度税率を適用した税額(例:ロイヤルティ100万円 × 10% = 10万円)を期限後納付する
  4. 不納付加算税・延滞税を合わせて納付する

条約上免税の所得(例:一部の利子)の場合、納付すべき本税はゼロとなります。なお、後述しますが源泉税相当額について受領者に求償できない場合には納付税額が少し大きくなります。

パターン②:国内法税率で過大源泉徴収した場合

租税条約の届出書を提出せずに20.42%で源泉徴収していた場合、条約限度税率との差額は過誤納金として取り戻すことができます。具体的には、受領者(海外親会社)が支払者(日本法人)を経由して税務署に「源泉所得税及び復興特別所得税の過誤納金還付請求書」を提出します。国内法税率(20.42%)と条約限度税率の差額が原則として受領者に還付されます。請求権の消滅時効は法定納期限から5年です。

還付請求書の記載例・提出先・還付の流れの詳細については、次の記事(記事12)で詳しく解説します。

受給者への求償権(所法222条)

本税相当額は求償できる

過小納付の場合には、支払者(日本法人)が源泉税を一時的に立て替えて納付した場合、所得税法第222条に基づき、本税相当額については受給者に対して求償権を行使できます。具体的には、次回以降の支払額から控除するか、受給者に対して支払請求をする方法が認められています。

求償を受けた受給者の側では、この支払額は「源泉徴収された所得税」とみなされます(所法222条後段)。

仕訳例:ロイヤルティ100万円・限度税率10%のケース

海外親会社P Corp.(米国)に対するロイヤルティ100万円の支払いについて、届出の提出が漏れており、かつ源泉徴収を行っていなかったことが判明したケースを例に説明します。なお、日米租税条約の限度税率は10%とします。

【前提】

  • ロイヤルティ:1,000,000円
  • 源泉税(限度税率10%適用):100,000円
  • 受給者への支払済額(源泉なし):1,000,000円

ケース①:受給者に求償する場合

支払者がまず本税を立替納付し、その後受給者から支払を受けます。

<源泉税を期限後納付したとき(立替)>
借方:仮払金(立替金) 100,000 / 貸方:現金預金 100,000

<受給者から求償に応じた支払を受けたとき>
借方:現金預金 100,000 / 貸方:仮払金(立替金) 100,000

なお、不納付加算税・延滞税は受給者に求償できないため、支払者が全額負担します(損金不算入)。

ケース②:受給者に求償しない場合(孫税に注意)

所得税法上は求償権が認められていますが、海外親会社との関係性や契約上の取り決めにより、実務上求償が難しい場合もあります。この場合、支払者が負担した源泉税は受給者への所得の追加払いとみなされます。追加払いとみなされた本税相当額(100,000円)は、受給者に対するロイヤルティの追加支払として原則として支払者の損金に算入されると考えられます

一方で、追加払いとみなされた金額に対してさらに源泉税(いわゆる「孫税」)が発生する点に注意が必要です。支払者が孫税も負担する場合、グロスアップ計算によって繰り返しの課税を終結させることができます。

グロスアップ計算(税率10%の場合):
 課税対象額 = 100,000円 ÷ (1 − 10%) = 111,111円
 孫税額   = 111,111円 × 10% = 11,111円(端数処理前)
<孫税を含めて源泉税を自己負担したとき>
借方:ロイヤルティ 111,111 / 貸方:現金預金 111,111
(※本税100,000円+孫税11,111円を追加で納付)

まとめ:発見したら早めに動くことが重要

源泉税の誤りへの対応は、発見から是正までのスピードが最も重要です。自主是正と調査発覚では不納付加算税の税率が倍違います。

状況対応の方向性
パターン①:過小納付を発見届出書を取得・提出 → 条約限度税率で期限後納付
パターン②:過大納付を発見届出書を取得・提出、過誤納金還付請求
税務署から20.42%での納付を指導された東京地裁平成27年判決を根拠に抗弁を検討
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このシリーズでは、源泉税・租税条約に関する実務論点を幅広く解説しています。以下の記事もあわせてご参照ください。

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