移転価格税制とは|外資系企業が直面する文書化義務と実務上の注意点

法人税務

外資系企業に対する税務調査では、グループ間取引の価格設定が最初に目を向けられる論点のひとつです。ロイヤリティ・マネジメントフィー・グループローンの利子など、海外親会社との間で発生する取引について、税務調査官は「その価格は本当に適正か」という視点で書類を精査します。

「本社が決めた価格だから問題ない」「これまで調査で指摘されたことはない」——そのような認識のまま対応が後手に回ると、多額の追徴課税と加算税が生じるリスクがあります。

この記事では、以下の点について解説します。

  • 移転価格税制の概要と外資系企業に関係する理由
  • 税務調査で特に問題になりやすいグループ間取引
  • 文書化義務の有無とその判定基準
  • 文書化が不十分な場合に税務調査で何が起きるか
  • 外資系中小法人が今から取るべき実務対応

移転価格税制とは何か

制度の概要

移転価格税制とは、グループ会社間の取引価格(移転価格)が独立企業間価格と異なる場合に、独立企業間価格で取引が行われたものとみなして課税所得を計算し直す制度です。

日本では租税特別措置法第66条の4に規定されています。

なぜ問題になるのか

グループ会社間では、独立した第三者との取引と異なり、価格を自由に設定できます。たとえば、日本子会社が海外親会社に対して実態に見合わないほど高額のロイヤリティを支払えば、日本子会社の利益は減少し、日本での法人税の負担を人為的に低下させることができます。

移転価格税制は、このようなグループ内での恣意的な利益移転を防ぎ、適正な課税を確保することを目的としています。

対象となる取引

移転価格税制の対象となる取引は大きく以下の4類型です。

類型具体例
有形資産の売買製品・部品・商品の売買
無形資産の使用許諾ロイヤリティ・ライセンス料
役務提供マネジメントフィー・コスト配賦・グループサービス
資金の貸付・借入グループローンの利子

これらの取引が「国外関連者」(原則として50%以上の株式を直接・間接に保有する外国法人等)との間で行われる場合に、移転価格税制が適用されます。

外資系企業で特に問題になるグループ間取引

外資系企業の日本法人では、以下のようなグループ間取引が頻繁に発生します。いずれも移転価格税制の対象となり得るため、価格設定の根拠を整理しておくことが重要です。

ロイヤリティ・ライセンス料

海外親会社が保有する商標・特許・ソフトウェア等の知的財産を使用する対価として支払うロイヤリティは、移転価格上の主要論点のひとつです。

ロイヤリティには日本の源泉徴収税が課される点についてはこちらの記事(記事4)で解説していますが、源泉税率とは別に、そのロイヤリティ料率が独立企業間価格として適正かどうかという移転価格の問題があります。

マネジメントフィー・コスト配賦

海外親会社から受ける経営管理サービスや、グループ共通コストの配賦額も移転価格の対象です。マネジメントフィーの源泉税の取り扱いについてはこちらの記事(記事7)で解説していますが、価格の適正性という観点からは移転価格の検討も必要です。

グループローンの利子

海外グループ会社からの借入に対して支払う利子も対象です。利子率が独立した第三者からの借入利率と大きく乖離している場合、移転価格上の問題が生じます。なお、グループ借入が過大な場合には過少資本税制・過大支払利子税制(記事13)の適用も別途検討が必要です。

グループ間役務提供

親会社・グループ会社からシェアードサービスやITサービス等を受ける場合の対価も対象です。この点については次の記事(グループ間役務提供)で詳しく解説します。

実務上の注意点

「本社が決めた価格だから適正なはず」という認識は通用しません。日本の税務当局は、その価格が独立した第三者間で成立したであろう価格と一致するかという観点から独自に検証します。

また、移転価格の問題は日本と親会社所在国とで非対称に生じる点にも注意が必要です。たとえば、日本子会社が親会社に支払うロイヤリティやマネジメントフィーが過大である場合、親会社側では収入が増えるため親会社所在国では税務上問題視されにくい一方、日本子会社の課税所得は圧縮されるため、日本の税務当局にとっては重要な調査対象となります。「本社側で問題になっていないから大丈夫」という判断は危険です。

独立企業間価格の算定方法

独立企業間価格を算定するための方法は複数あります。

TNMM(取引単位営業利益法)

実務上最も広く使われる方法です。

TNMMとは、検証対象法人(日本子会社等)の営業利益率を、比較対象となる独立企業の営業利益率と比較することで、取引価格の適正性を間接的に検証する方法です。

たとえば、日本子会社が販売会社として機能している場合、同様の機能・リスクを持つ独立した販売会社の営業利益率(ベンチマーク)と比較します。日本子会社の営業利益率がそのベンチマーク範囲内に収まるように、グループ間取引の価格を設定する方法です。

TNMMが広く使われる理由は、比較対象となる独立企業のデータを商用データベース(Orbis等)から比較的入手しやすい点にあります。また、個々の取引価格を直接比較するのではなく、利益水準で検証するため、適用できる取引類型が広い点も実務上の利点です。

その他の算定方法

TNMMの他にも、独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、利益分割法(PS法)などがあります。これらは取引類型や比較可能データの入手可能性によって使い分けられますが、外資系企業の日本法人における実務では、TNMMが採用されるケースが大半です。

実務ポイント
算定方法の選択・ベンチマーク分析は高度な専門知識を要します。実務上は移転価格専門家との連携が不可欠です。

日本の移転価格文書化義務

BEPSプロジェクト(税源浸食と利益移転)のアクション13を受け、日本でも2016年度税制改正により、以下の3つの文書化が義務付けられました。

3つの文書化の概要

文書内容
国別報告書(CbCR)グループ全体の国別情報(売上・利益・納税額・従業員数等)
マスターファイルグループ全体のビジネス・財務・移転価格ポリシーの概要
ローカルファイル自国(日本)の国外関連者取引の詳細・独立企業間価格の算定根拠

各文書の義務発生閾値

文書提出・保存義務が生じる閾値
国別報告書(CbCR)最終親会社の連結総収入金額が1,000億円以上
マスターファイル最終親会社の連結総収入金額が1,000億円以上
ローカルファイル国外関連者との取引額が50億円以上(無形資産取引は3億円以上

CbCRとマスターファイルは連結総収入金額(受取利息・有価証券売却益等を含む)ベースの判定のため、日本子会社の規模にかかわらず、グループ全体の収入金額が大きければ義務が生じる点に注意が必要です。

ローカルファイルの同時文書化義務

ローカルファイルについては、同時文書化が求められています。これは、取引が行われた事業年度の確定申告書の提出期限(通常は事業年度終了後2か月以内)までに、文書を作成・保存しておかなければならないことを意味します。

税務調査が始まってから慌てて作成しても遅く、調査時点で文書が存在しない場合には後述する推定課税のリスクが生じます。

閾値未満の法人も注意が必要

上記の閾値に満たない外資系中小法人は、ローカルファイルの同時文書化義務は免除されます。ただし、税務調査において調査官からローカルファイルの提出を求められた場合、原則として60日以内の調査官が指定する日までに提出しなければなりません。この期限内に提出できない場合、後述する推定課税のリスクが生じます。

同時文書化義務がない場合でも、税務調査に備えてローカルファイル、または取引の合理性を説明できる資料(契約書・価格設定根拠・比較資料等)を日頃から準備しておくことが重要です。

文書化が不十分な場合のリスク

推定課税

移転価格税制において最も注意すべきリスクのひとつが推定課税です。

租税特別措置法第66条の4第12項(同時文書化対象取引の場合)・第14項(同時文書化免除取引の場合)では、税務当局が独立企業間価格の算定に必要な資料の提出を求めたにもかかわらず、納税者がこれに応じない場合、税務当局が類似法人の利益率等を用いて独立企業間価格を推定し、更正することができると規定されています。

資料が準備できていない状態での税務調査は、納税者に著しく不利な状況をもたらす可能性があります。

更正・加算税・延滞税

推定課税により更正が行われた場合、本税の追徴に加え、過少申告加算税・重加算税・延滞税が課されます。移転価格の更正額は大きくなりやすく、これらを合わせると総額が相当な規模になるケースがあります。

相互協議と二重課税リスク

日本で移転価格の更正が行われると、親会社側の国でも対応的調整が行われない限り、同一の所得に対して日本と親会社側の両国で課税される二重課税が生じます。租税条約に基づく相互協議(MAP)により二重課税の解消を図ることはできますが、解決まで数年を要するケースも珍しくありません。

外資系中小法人の実務対応ポイント

ステップ1:グループ間取引の全体像を把握する

まず、自社がどのような国外関連者取引を行っているかを整理します。

  • 何を、誰に(どのグループ会社に)、いくらで取引しているか
  • 取引類型ごとの年間取引額はいくらか
  • 文書化義務の閾値(50億円・3億円)に該当するか

この把握がなければ、移転価格リスクの全体像が見えません。

ステップ2:契約書・価格設定根拠を整備する

閾値未満であっても、少なくとも以下の書類は整備しておくことを推奨します。

  • グループ間取引契約書(取引の内容・価格・条件を明記したもの)
  • 価格設定の根拠資料(なぜその価格・料率が適正かを示す資料)
  • 役務提供の実態を示す資料(マネジメントフィー等の場合、サービスの内容・受益の事実)

ステップ3:税理士・移転価格専門家との役割分担を明確にする

月次の税務顧問業務を担う税理士と、移転価格の専門分析を行う専門家(移転価格専門チーム)は、役割が異なります。

  • 税務顧問:グループ間取引の概要把握、閾値判定、文書整備のサポート
  • 移転価格専門家:ベンチマーク分析、ローカルファイルの作成、税務調査対応

閾値に達しない中小法人であれば、まずは顧問税理士を窓口として移転価格リスクの有無を確認し、必要に応じて専門家と連携する体制が現実的です。

まとめ

移転価格税制についての要点を整理します。

  • グループ間取引の価格が独立企業間価格と異なる場合、日本の税務当局は課税所得を修正できる
  • 実務上の算定方法はTNMMが中心。専門的なベンチマーク分析が必要
  • 文書化義務はCbCR・マスターファイル・ローカルファイルの3種類で、閾値に応じて義務が発生
  • ローカルファイルは同時文書化が必要。事後の作成では遅い
  • 閾値未満でも契約書・価格根拠の整備は日頃から行うべき

【簡易チェックリスト】自社に文書化義務はあるか

  • グループ全体(最終親会社)の連結総収入金額は1,000億円以上か? → CbCR義務あり
  • グループ全体の連結総収入金額は1,000億円以上か? → マスターファイル義務あり
  • 国外関連者との取引額(年間)は50億円以上か? → ローカルファイル義務あり
  • 国外関連者との無形資産取引額(年間)は3億円以上か? → ローカルファイル義務あり
  • 上記に該当しない場合でも、グループ間取引の契約書・価格根拠資料は整備できているか?

次の記事では、グループ間役務提供(マネジメントフィー・シェアードサービス等)については詳しく解説します。

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