はじめに
配当をほとんど出さずに内部留保を積み上げている外資系企業の日本子会社。そのような会社に対して、通常の法人税とは別に追加課税が発生する制度があることをご存じでしょうか。
これが「留保金課税」(特定同族会社の特別税率)です。
ただし、外資系子会社であれば一律に適用されるわけではありません。課税されるかどうかは、外国親会社を含めたグループ全体の株主構造によって決まります。大手多国籍企業の日本法人は対象外となるケースが多い一方、オーナー系外資や創業家が支配する外国法人の日本子会社は対象になりえます。
本記事では、特定同族会社の判定の仕組み、留保金課税の計算方法、外資系企業にとっての実務上の影響、そして対策の考え方を解説します。
特定同族会社とは
留保金課税の適用対象となるのは「特定同族会社」です(法人税法第67条)。判定の仕組みは少し複雑ですが、外資系子会社への適用可否を正確に判断するうえで重要です。
ステップ1:被支配会社かどうかの判定
まず「被支配会社」の判定を行います。
被支配会社 = 1株主グループ(1人の株主およびその同族関係者)が、議決権の50%超を保有している会社
ただし、この判定において「被支配会社でない法人」は株主から除外して計算します。
ステップ2:「被支配会社でない法人」を除外する
ここが外資系子会社の判定において最も重要なポイントです。
被支配会社の判定上、非同族の法人(被支配会社でない法人)は株主から除いて判定されます(法基通16―1―1)。そしてこの除外ルールは、その非同族法人の子会社・孫会社・曽孫会社等にも連鎖して適用されます。
つまり、グループのトップ(最終親会社)が被支配会社かどうかが、日本子会社の判定を実質的に左右します。
外資系企業への当てはめ
| 海外親会社の株主構造 | 特定同族会社への該当 |
|---|---|
| 上場企業・株主分散 | 海外親会社は「被支配会社でない法人」→ 株主から除外 → 日本子会社は被支配会社に該当しない |
| 創業家・オーナーが50%超保有 | 海外親会社は「被支配会社」→ 株主から除外されない → 日本子会社も被支配会社に該当する |
資本金要件と例外
被支配会社に該当し、かつ以下の資本金要件にも該当する場合に、特定同族会社として留保金課税の対象となります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 原則:資本金1億円超 | 期末の資本金(出資金)の額が1億円超の会社が対象 |
| 例外:大法人の完全支配下 | 資本金1億円以下であっても、資本金5億円以上の法人による完全支配関係(100%支配関係)がある場合は対象 |
ケース別判定例
以下の図は、海外親会社の株主構造が異なる3つのケースで、特定同族会社への該当可否がどのように変わるかを示したものです。

【判定まとめ】
| Case 1 | Case 2 | Case 3 | |
|---|---|---|---|
| 海外親会社の株主構造 | 上場企業・株主分散 | 創業者が100%保有 | 創業家一族が80%保有 |
| 被支配会社への該当 | 非該当 | 該当 | 該当 |
| 特定同族会社への該当 | 非該当 | 該当 | 該当 |
| 留保金課税 | 対象外 | 対象 | 対象 |
Case 1(上場企業・株主分散)
海外親会社が上場企業で株主が広く分散している場合、親会社は「被支配会社でない法人」として株主判定から除外されます。除外した結果、日本子会社の50%超を保有する株主グループが存在しないため、特定同族会社に非該当となり、留保金課税は発生しません。
Case 2(創業者が100%保有)
創業者1人が海外親会社の議決権を100%保有している場合、海外親会社は「被支配会社」(1株主グループで50%超)に該当します。この場合、親会社は株主判定から除外されず、日本子会社も被支配会社に該当します。さらに日本子会社の資本金が1億円超であるため、日本子会社は特定同族会社に該当し、留保金課税の対象となります。
Case 3(創業家一族80%保有・中間持株会社あり)
海外親会社の株式を創業家一族が80%保有している場合も、海外親会社は「被支配会社」に該当します。その傘下にある海外中間持株会社・日本孫会社も同様に被支配会社となります(法基通16―1―1)。また、日本子会社の資本金は1億円以下ですが、資本金5億円以上の中間持株会社との間に100%の支配関係があるため、日本子会社は特定同族会社に該当し、留保金課税の対象となります。
留保金課税の仕組み
特定同族会社に該当する場合、当期の留保金額が留保控除額を超えると、その超過部分(課税留保金額)に追加で課税されます。
計算のフロー
留保金額
─ 留保控除額(3種類のうち最大値)
↓
【課税留保金額】
× 税率(10%・15%・20%)
↓
【留保金課税額】← 通常の法人税額に上乗せして申告・納付
留保金額の計算
留保金額は、留保所得(税引後の利益に留保項目の税務調整を加えたもの)から、当期の配当金と法人税等相当額を控除して計算します。
留保所得(税引後利益 ± 留保項目の税務調整)
─ 当期の配当金
─ 法人税等相当額
↓
【留保金額】
配当金の計上時期
留保金額の計算において控除できる配当金は、原則として当期の決算確定日(株主総会の決議日)までに決議されたものが対象です。期末配当の場合、実際の支払いは翌期の株主総会後になりますが、留保金課税の計算上は当期の社外流出として扱われます。
留保控除額の計算(3種類)
留保金課税において重要なのが「留保控除額」の計算です。以下の3種類を計算し、最も大きい金額が留保控除額になります。
| 基準 | 計算方法 |
|---|---|
| ①所得基準 | 当期所得等の金額 × 40% |
| ②定額基準 | 2,000万円(年額) |
| ③積立金基準 | 資本金の額 × 25% ─ 期末利益積立金額(負の場合はゼロ) |
積立金基準の考え方
積立金基準は「利益積立金額が、資本金の額の25%相当額に達するまでの不足額」を控除するものです。
- 利益積立金が少ない(積み上げ途上の)会社 → 控除額が大きくなる
- 利益積立金がすでに資本金の25%以上に達している会社 → 控除額はゼロ
なお、ここでいう利益積立金額は、税務上の利益剰余金に相当するものです。
誤りやすいポイント:利益を蓄積している会社ほど積立金基準の控除額は小さく(ゼロに)なります。この基準は「最低限の内部留保を認める」趣旨で設けられており、利益が積み上がるほど保護が薄くなる仕組みです。
課税留保金額と税率
課税留保金額が生じた場合、以下の3段階の超過累進税率が適用されます。
| 課税留保金額(年額) | 税率 |
|---|---|
| 3,000万円以下の部分 | 10% |
| 3,000万円超1億円以下の部分 | 15% |
| 1億円超の部分 | 20% |
計算例
特定同族会社に該当するケースで、留保金課税を計算してみます。
前提条件(事業年度:1年間)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 当期留保所得 | 3億円 |
| 法人税等 | 9,000万円 |
| 当期の配当支払額 | 0円 |
| 資本金の額 | 10億円 |
| 期末利益積立金額 | 1億円 |
ステップ1:当期留保金額の計算
当期留保金額 = 3億円(留保所得)- 9,000万円(法人税等)- 0円(配当)
= 2億1,000万円
ステップ2:留保控除額の計算(3種類を比較)
| 基準 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ①所得基準 | 3億円 × 40% | 1億2,000万円 |
| ②定額基準 | — | 2,000万円 |
| ③積立金基準 | 10億円 × 25% ─ 1億円 = 2億5,000万円 ─ 1億円 | 1億5,000万円 |
→ 留保控除額 = 1億5,000万円(③が最大)
今回は利益積立金(1億円)がまだ少ないため、積立金基準の控除額が最大になっています。仮に利益積立金が10億円に積み上がっていた場合(10億円×25% ─ 10億円 = マイナス)、積立金基準はゼロとなり、①所得基準の1億2,000万円が採用されます。
ステップ3:課税留保金額の計算
課税留保金額 = 2億1,000万円 ─ 1億5,000万円 = 6,000万円
ステップ4:留保金課税額の計算
| 対象金額 | 計算 | 税額 |
|---|---|---|
| 3,000万円以下の部分(3,000万円) | 3,000万円 × 10% | 300万円 |
| 3,000万円超1億円以下の部分(3,000万円) | 3,000万円 × 15% | 450万円 |
留保金課税額 = 300万円 + 450万円 = 750万円
外資系企業の実務上の影響
配当金額の試算タイミング
外資系子会社が留保金課税を回避するための実務上のポイントは、株主総会(決算確定日)までの間に、留保控除額等を加味した留保金課税の試算を行い、課税留保金額がゼロとなるように配当金額を調整することです。決算確定後では配当金額を修正することはできないため、決算数値の見込みが固まった段階で早めに試算を行い、必要な配当金額を逆算しておくことが重要です。
海外本社の意思決定との調整
配当の支払いについては海外親会社の承認が必要なケースが通常です。留保金課税が生じるリスクがある場合は、年度末の利益見通しが固まった段階で早めに海外本社の財務・税務部門に情報を共有し、配当決議のスケジュールを調整することが重要です。
海外親会社への配当と源泉税
留保金課税を回避するために配当を支払う場合、海外親会社への配当には配当源泉税が課される場合があります。租税条約による減免が適用される場合でも、軽減税率の適用を受けるためには租税条約届出書の提出など所定の手続きが必要です。配当の支払いに際した源泉税および租税条約届出書の取り扱いについては、記事5:外資系企業の配当源泉税を参照してください。
よくある誤解と実務上の注意点
留保金課税の見落としに注意
外資系子会社だからといって留保金課税が当然に適用されるわけではありませんが、海外親会社が創業者一族やPEファンド等に50%超保有されているにもかかわらず、留保金課税の検討が行われていないケースは少なくありません。担当税理士も含めて検討が抜け落ちている可能性があります。
海外親会社が「被支配会社」に該当するかどうかはグループトップの株主構造の確認が必要であり、日本子会社側だけでは判断しきれない情報です。外資系子会社の経理・税務担当者は、自社の顧問税理士に対して「留保金課税の検討を行っているか」を一度確認することをお勧めします。
「赤字なら留保金課税はかからない」
→ 必ずしもそうとは言えません。
当期の課税所得がゼロでも、繰越欠損金を損金算入した結果としてゼロになっている場合は注意が必要です。留保金課税の計算に用いる「所得等の金額」には、損金算入した繰越欠損金の金額が加算されます。そのため、繰越欠損金の使用により表面上の所得がゼロになっていても、留保金額が生じて課税される場合があります。
「配当を出せば必ず回避できる」
→ 正確には、課税留保金額がゼロになるよう配当金額を設定する必要があります。
配当を出しても、留保控除額を超える部分の留保金額が残れば課税が生じます。留保金課税を完全に回避したい場合は、「当期留保金額 = 留保控除額以下」になるように配当金額を逆算して設定します。
「中間配当で対応できる」
→ 中間配当も留保金額の計算に含まれます。
中間配当として期中に支払った分も「当期の配当支払額」に含まれるため、留保金課税の軽減に活用できます。期中の段階で利益見通しを立てて中間配当を活用するのも有効な対策の一つです。
実務チェックリスト
以下の項目で特定同族会社への該当可否と課税リスクを確認してください。
【Step 1:特定同族会社への該当確認】
- グループの最終親会社(グループトップ)は、特定の株主グループが50%超を保有する「被支配会社」か
- 上場企業・株主分散 → 非該当の可能性が高い(以降のチェック不要)
- 創業家・オーナー・PEファンド等が50%超保有 → 該当の可能性あり(以降も確認)
- 資本金1億円超、または資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある
【Step 2:課税リスクの確認】
- 当期に配当の支払いがないか、少額にとどまる見込み
- 当期所得が相当額(目安として数千万円〜)になる見込み
- 繰越欠損金を使用している場合、留保金額の計算への影響を確認している
- 留保控除額の計算を行い、課税留保金額がプラスになるか確認している
【Step 3:対応】
- 海外親会社の財務・税務部門に留保金課税リスクを共有している
- 必要に応じて配当金額・タイミングの調整を検討している
まとめ
- まず特定同族会社への該当を確認する必要があります。グループトップの外国親会社が創業者・オーナー一族・PEファンド等に50%超保有されている場合、日本子会社は特定同族会社に該当し留保金課税の対象となりえます。
- 留保金課税は配当調整で回避できます。課税留保金額(留保金額から留保控除額を差し引いた額)がゼロ以下になるよう、株主総会(決算確定日)までに留保金課税の試算を行い、必要な配当金額を逆算して調整することが実務上の対応です。決算確定後は変更できないため、決算数値の見込みが固まった段階での早期試算が重要です。
- 担当税理士への確認を。留保金課税は海外親会社の株主構造の把握が前提となるため、検討が抜け落ちやすい論点です。自社の顧問税理士に対して留保金課税の検討状況を確認することをお勧めします。
本記事は2026年5月現在の法令等に基づいています。法改正・個別の状況により取り扱いが異なる場合がありますので、具体的なご判断は税理士等の専門家にご相談ください。


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