はじめに
子会社から多額の配当を受けた後、その株式を売却しようとしたとき、税務上の株式の帳簿価額がすでに大きく下がっており、期待していた譲渡損が計上できないケースがあります。
これは、令和2年度税制改正で創設された子会社株式簿価減額特例によるものです。受取配当等の益金不算入制度(法人税法第23条・第23条の2)との組み合わせで初めて全体像が見えてくる制度であり、配当政策を検討する際に見落とすと、想定外の課税結果を招くことがあります。
本記事では、制度の趣旨・仕組み・数値例をまとめて解説したうえで、資本構成・M&A履歴の4つのパターンをケーススタディ形式で取り上げ、それぞれの適用判定を整理します。ケーススタディは外資系グループを前提として設定していますが、持株会社を日系企業に読み替えればそのまま日系グループにも当てはまる内容です。
この特例は国内・海外を問わず子会社を持つ内国法人であれば適用される可能性があります。要件に該当する配当を実施した後では事後的な対応が難しいため、本記事で制度の概要を把握しておくことで税務リスクを低減できます。
子会社株式簿価減額特例の概要(ソフトバンク税制)
制度創設の背景と問題となっていたスキーム
本特例は、通称「ソフトバンク税制」とも呼ばれます。大手企業が海外子会社から多額の配当を受けた後に株式を売却して巨額の譲渡損を計上したことが問題視されたことを契機に、令和2年度税制改正で導入された経緯があります。
本特例が創設される前、内国法人は次のようなスキームで税負担を軽減することができました。
- 親法人 P が子会社 S の株式を100で取得する
- S が P に対して20の配当を行う → P は益金不算入制度により配当収益を非課税で受領
- 配当により S の純資産が減少し、S 株式の時価が下落する
- P が S 株式を時価(80相当)で売却 → 税務上の帳簿価額100との差額20が譲渡損として損金算入される
配当で非課税収益を得ながら、同額の譲渡損を作り出すことができるこのスキームは、特にクロスボーダー取引における国際的な租税回避として問題視され、令和2年度の税制改正で手当てされました。
特例の仕組み
子会社株式簿価減額特例(法人税法施行令第119条の3・第119条の4)は、以下の2要件をともに満たす配当を受けた場合に、その配当に係る益金不算入相当額を子会社株式の税務上の帳簿価額から減額する措置です(同時に利益積立金額も同額減少します)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 特定支配関係 | 配当法人の株式を50%超保有している |
| ② 帳簿価額基準 | 同一事業年度内に受ける配当の合計額が、その株式の帳簿価額の10%超である |
外国子会社(持株割合25%以上等)からの配当については、益金不算入相当額は受取配当の95%相当額となります(法人税法第23条の2の適用に対応するため)。
また、本特例の適用により、税務上の株式帳簿価額がマイナスの金額になることも制度上あり得ます。
数値例で確認する
以下は、S社(日本中間持株会社、P社の100%子会社)がT社(日本子会社)から配当を受けた場合の例です。
前提
- S社 の T社 株式の帳簿価額:100
- T社 から S社 への配当:20(帳簿価額の20%)
- 配当の益金不算入割合:100%(完全子会社と仮定)
S社の税務上の処理
| ステップ | 仕訳(S社) | 内容 |
|---|---|---|
| ① 配当受領 | 現預金 20 / 受取配当金 20 | 全額益金不算入 |
| ② 株式簿価減額 | 利益積立金額 20 / T社株式 20 | 本特例による簿価減額 |
| ③ 株式売却(時価80) | 現預金 80 / T社株式 80 | 譲渡損益ゼロ |
②の処理により、T社 株式の帳簿価額は100から80に引き下げられます。③で時価80で売却しても、帳簿価額も80に調整されているため、譲渡損は生じません。本特例がなければ、帳簿価額100のまま時価80で売却することになり、譲渡損20が損金算入されていたことになります。
なお、本特例が適用されても、配当を受けた時点で直ちに課税が生じるわけではありません。影響が顕在化するのは、その後子会社株式を売却した時点です。株式の税務上の帳簿価額が下がっている分だけ、売却時の譲渡益が増加する、あるいは譲渡損が圧縮されるという形で、税負担が重くなります。配当時点では見えにくい将来コストであるため、見落としが生じやすい点に注意が必要です。
こうした影響を回避するには、次章で解説する適用除外要件のいずれかを満たす配当を計画することが重要です。要件を満たさない形で多額の配当を実施してしまった後では、株式簿価の減額という結果を覆すことはできません。
適用除外要件
子会社株式簿価減額特例は、以下のいずれかの要件を満たす場合には適用されません。配当を受ける前にいずれかの要件を充足しているか確認することが実務上の基本となります。
① 内国株主割合要件
配当法人(子会社)が内国法人であり、かつその設立時から特定支配日(50%超の支配関係を有することとなった日)までの期間を通じて、発行済株式等の90%以上を内国株主(内国法人・居住者等)が継続して保有していた場合。
配当法人が外国法人である場合はこの要件を満たすことができない点に注意が必要です。また、この要件を主張するには、商業登記簿謄本・株主名簿の写し・株式譲渡契約書等の書類を保存していることが条件となります。
② 特定支配日利益剰余金額要件
配当後の子会社の利益剰余金の額が、特定支配日時点の利益剰余金の額を下回らない場合。すなわち、配当の原資が特定支配日以降に稼得した利益剰余金の範囲内に収まっている場合です。
子会社の設立後に親法人が取得(M&A等)した場合、特定支配日時点の利益剰余金がそれなりに積み上がっているケースでは、この要件が適用除外の根拠になり得ます。
③ 10年超支配要件
特定支配日から配当を受ける日までの期間が10年を超える場合。長期にわたって子会社を保有している場合には、①・②の要件が確認しにくい実務上の困難に配慮した要件とされています。
外資系企業の日本法人として10年以上の歴史を持つ子会社であれば、この要件が機能し得ます。
④ 金額要件
同一事業年度内に受ける配当の合計額が2,000万円以下の場合。
少額の配当については事務負担を考慮して対象外とされています。ただし、M&Aや資本再編に伴う配当は多額になることが多く、この要件が機能するケースは限られます。
適用回避防止規定——孫会社経由の配当に注意
本特例には、グループ内の階層構造を利用した適用回避を防ぐための規定が設けられています。外資系企業の複数の日本法人からなる多層構造において特に盲点となりやすい論点です。
孫会社経由スキームへの対応
ここでは P社 → S社 → T社 という3層構造を前提とします。S社がP社から見た子会社、T社がS社から見た孫会社にあたります。
以下の条件を両方満たす場合、S社(子会社)は上述の要件①(内国株主割合要件)・③(10年超支配要件)を満たさないものとみなされます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 資産構成要件 | S社の総資産(会計上の帳簿価額)の50%超がT社(孫会社)株式(税務上の帳簿価額) |
| 配当金額要件 | 過去10年以内に、T社からS社が受けた配当が、T社株式の帳簿価額の10%超、かつ2,000万円超である |
T社が大きな留保利益を持ち、S社が持株会社として機能しているようなケースが典型例です。S社がT社 から多額の配当を受けた場合、その影響はP社がS社 株式を売却するときの譲渡損益計算にまで波及します。
また、適用回避防止規定が発動した場合、②特定支配日利益剰余金額要件の計算にも注意が必要です。T社がS社の特定支配日以後にT社の子会社(孫会社)から受けた配当の額は、S社の特定支配前に稼得した利益剰余金の額に加算されます。すなわち、孫会社からの配当によって積み上がった子会社の利益剰余金は、②の判定上、特定支配後に稼得した利益剰余金としては扱われません。孫会社からの配当収入を原資として配当を行う場合には、②の要件充足を過信しないよう注意が必要です。
合併・分割型分割を利用した回避への対応
本特例には、合併や分割型分割を通じて適用回避しようとするスキームへの対応規定も設けられています。
たとえば、①・③の要件を満たす別法人に子会社を吸収合併させることで適用除外を狙うような手法に対しては、合併法人が要件①・③を満たさないものとみなす規定があります。組織再編税制と本特例はこのように交差する論点を含んでいるため、グループ再編を検討する際は両制度を併せて確認することが重要です。
外資系グループのケーススタディ:資本構成・M&A別の適用判定
日本の中間持株会社を持つグループは要確認
外資系グループで本特例が実務上問題になるのは、日本に中間持株会社(内国法人)を設置して、その下に子会社を保有しているケースです。例えば、P社が海外親会社、その下に100%子会社であり日本の中間持株会社であるS社、さらにその下に子会社T社(国内・海外を問わず)があるようなケースです。S社がT社から多額の配当を受ける場合、S社は本特例の対象となる可能性があります。以下では、具体的にどのような資本構成・M&A履歴の場合に特例の対象となりうるかをケーススタディにしてみていきます。
なお、以下のケーススタディはP社を海外親会社とする外資系グループを前提として設定していますが、P社についてはないものとして無視し、S社を日本の親会社に読み替えれば日系企業グループにもそのまま当てはまります。
外資系グループの典型ケース別チェック
以下では、外資系グループにおける代表的な資本構成・M&A履歴のパターンごとに、本特例がトリガーされるかどうかを整理します。
【共通前提】配当の金額による適用の有無
いずれのケースにおいても、同一事業年度内に受ける配当の合計額が子会社株式の帳簿価額の10%以下である場合、本特例の適用要件(帳簿価額基準)を満たさないため、適用除外要件の確認が不要となります。また、配当総額が2,000万円以下であれば④金額要件により適用除外となります。配当の規模が小さい場合はこれらを先に確認するのが効率的です。
ケース① 中間持株会社が自ら設立した子会社への配当(国内・海外を問わず)

S社が自ら設立したT社(国内子会社または海外子会社)から配当を受けるケースです。T社の設立時点では利益剰余金はゼロであるため、特定支配日時点の利益剰余金額もゼロとなります。配当後にT社の利益剰余金がゼロを下回ることはないため、②特定支配日利益剰余金額要件を充足し、本特例は適用されないと考えられます。
T社が外国子会社である場合、①内国株主割合要件は配当法人が外国法人であるため使えませんが、②の要件で適用除外となる点は国内子会社と同様です。
ケース② 過去10年以内にM&Aで取得した国内子会社からの配当

S社がM&Aにより国内子会社T社を取得した後、T社から配当を受けるケースです。
①内国株主割合要件:T社の設立時からT社の株主の90%以上が内国法人や居住者であれば充足できます。充足できないケースとしては、T社がもともと別の外資系グループの海外親会社直下の日本法人であった場合は、設立時から外国法人が株主であるため、この要件を充足することはできません。
②特定支配日利益剰余金額要件:買収後(特定支配日以降)にT社が稼得した利益を原資とする配当であれば充足できます。一方、買収前から積み上がっていた利益を原資とする配当は充足できません。
③10年超支配要件:買収から10年以内のケースであるため、この要件は使えません。
まとめ:買収後に稼得した利益の範囲内での配当であれば②で適用除外となります。買収前の利益を原資とする配当については、T社の株主履歴と書類保存の状況次第で①の充足可否が鍵となります。仮に①を充足できない場合には、多額の配当は支配から10年超になるまで実施しない、あるいは同一事業年度内の配当の合計額がT社株式簿価の10%を超えないように毎年小刻みに配当していくなどの対応が考えられます。
ケース③ 過去10年以内にM&Aで取得した外国子会社からの配当

S社がM&Aにより外国子会社T社(海外法人)を取得し、T社から配当を受けるケースです。
①内国株主割合要件:T社が外国法人であるため、この要件は使えません。
②特定支配日利益剰余金額要件:買収後にT社が稼得した利益を原資とする配当であれば充足できます。買収前の利益を原資とする配当は充足できません。
③10年超支配要件:買収から10年以内のケースであるため、この要件は使えません。
まとめ:①が使えない分、②の充足可否(買収後利益の範囲内かどうか)が実質的な唯一の判断軸となります。②を充足できない場合には、多額の配当は支配から10年超になるまで実施しない、あるいは同一事業年度内の配当の合計額がT社株式簿価の10%を超えないように毎年小刻みに配当していくなどの対応が考えられます。
ケース④ 国内子会社の下に国内孫会社がいる構造

P社 → S社 → T社(国内子会社)→ U社(国内孫会社)という4層構造において、U社がT社に多額の配当をしている場合に、T社がS社に多額の配当をするケースです。
①内国株主割合要件・③10年超支配要件:T社の総資産の50%超がU社株式であり、かつ過去10年以内にU社からT社への配当がU社株式の帳簿価額の10%超かつ2,000万円超である場合、適用回避防止規定が発動し、T社についてこれら2つの要件が使えなくなります(前述の適用回避防止規定参照)。
②特定支配日利益剰余金額要件:基本的にはT社の設立または取得の時点での利益剰余金の水準と比較して、配当後もその水準を下回らなければ充足できますが、U社取得後にU社の配当によりT社が獲得した利益剰余金については特定支配後の利益剰余金として扱われない点に注意が必要です。
まとめ:①・③が適用回避防止規定により遮断される場合、②の充足可否が唯一の判断軸となります。②も充足できない場合には、T社からS社への配当額を帳簿価額の10%以下に抑えるか、2,000万円以下に留めることで特例適用を回避することが現実的な対応となります。
このように孫会社を保有している場合には、子会社からの配当だけではなく、孫会社からの配当についても特例のトリガーとなるため、グループ全体での配当政策を税務の観点から検討しておくことが重要になります。
まとめ
子会社株式簿価減額特例は、受取配当等の益金不算入制度とセットで理解しなければ、配当政策・株式売却・グループ再編のいずれの場面でも見落としが生じやすい制度です。以下の4点を確認の起点としてください。
| 確認事項 | ポイント |
|---|---|
| (1) 配当の金額 | 株式帳簿価額の10%超かつ2,000万円超であれば本特例の適用可能性を検討 |
| (2) 子会社化の経緯 | 自社設立であれば②特定支配日利益剰余金額要件を充足し基本的に適用なし。M&Aによる取得であれば要検討。いずれの場合も(4)を併せて確認 |
| (3) 支配の期間・株主構成 | 特定支配日から10年超経過しているか(③要件)、または設立時から継続して内国法人・居住者が90%以上保有しているか(①要件)を確認。(4)も必ず確認 |
| (4) 孫会社の有無 | 孫会社がある場合は適用回避防止規定の検討が必要。対象となる場合には③10年超要件・①内国株主割合要件が遮断されるため要注意 |
特に多層構造を持つ外資系グループにおいては、孫会社経由の配当に対する適用回避防止規定の存在にも注意が必要です。配当を実施する前に税務上の影響を確認することを強くお勧めします。
配当に関連する論点として、内部留保が多い法人に課される留保金課税や、外国親会社へ配当を送金する際の配当源泉税についても合わせてご参照ください。


コメント