はじめに
日本に複数の法人を設立している外資系グループでは、一方の法人が黒字、もう一方が赤字というケースがあります。連結決算上はグループとして損益が相殺されているにもかかわらず、日本の税務上は黒字法人だけに法人税が課され、赤字法人の欠損金は活用できないことになります。この乖離を解消するための制度が、グループ通算制度です。
グループ通算制度は、令和2年度税制改正により連結納税制度を改組して創設され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています(法人税法第64条の5等)。
この記事では、グループ通算制度の基本的な仕組みと外資系企業が検討する際の実務上のポイントを解説します。
グループ通算制度のメリット・デメリット概観
グループ通算制度は論点が多い制度です。まず全体像をつかんでいただくため、単体申告と比較した場合のメリット・デメリットを整理します。
| 項目 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 損益通算・繰越欠損金の通算 | グループ内の黒字法人と赤字法人の損益を相殺でき、グループ全体の税負担を軽減できる | — |
| 制度適用前の繰越欠損金・含み損 | 要件を満たす場合、開始前の繰越欠損金を引き継げるが、特定欠損金としてその法人自身の所得を上限に控除できるにとどまり、単体申告と比較して大きなメリットはない | 要件を満たさない場合は欠損金が切り捨て。含み損の使用にも一定の制限がある |
| 時価評価 | 制度の開始・加入時に一部の法人で保有資産の時価評価が必要となる。含み損のある資産を保有している場合は評価損を損金算入できる場合がある | 含み益のある資産を保有している場合は課税が生じる。離脱時にも時価評価が必要となる場合あり |
| 個別制度への影響 | 外国税額控除・試験研究費の税額控除をグループ全体で活用できる場合がある | 資本金1億円超の法人等がグループ内にいる場合、軽減税率・欠損金100%控除等の中小法人特例が全社不適用となる |
| 申告事務 | — | 各法人間の協力・調整が必要で、単体申告に比べて事務負担が増加する。また、連帯納付責任を負う |
以下、各項目について順に解説します。
グループ通算制度の概要と連結納税制度との違い
制度創設の背景
連結納税制度は2002年(平成14年)の導入以来、グループ内の損益通算を可能にする制度として活用されてきました。しかし、連結ベースでの一体申告は所得計算・税額計算が煩雑で、税務調査後の修正申告に時間がかかるなどの実務上の課題が指摘されていました。
こうした課題を踏まえ、個別申告方式に改めつつ、グループ内の損益通算という核心は維持するという方向で見直しが行われ、グループ通算制度が創設されました。連結納税制度からグループ通算制度への主な変更点は、個別申告への移行と、税務調査等の修更正が他のグループ法人に原則波及しない遮断措置の導入です。
適用要件
完全支配関係とは
グループ通算制度の対象は、完全支配関係にある内国法人のグループです。完全支配関係とは、一の者(個人・法人を問わない)が法人の発行済株式等の全部を直接・間接に保有する関係をいいます。
すなわち、持株比率が100%(直接・間接を含む)でなければ、グループ通算制度は適用できません。
通算親法人の要件
グループ通算制度を適用するためには、グループの中心となる通算親法人を定める必要があります。通算親法人は以下の要件を満たす必要があります。
- 内国法人(日本の法人)であること
- 他の内国法人による完全支配関係下にないこと(日本法人グループの最上位)
外国法人は通算親法人になることができません。
外資系企業における適用関係
外資系グループで適用が考えられるのは、例えば以下のような資本構成です。
【ケース①:外国法人→日本子会社A(100%)→日本子会社B(100%)の垂直構造】
日本子会社Aが通算親法人、日本子会社Bが通算子法人として、グループ通算制度を適用できます。
【ケース②:外国法人→日本中間持株会社A(100%)→日本子会社B・C(各100%)の構造】
日本中間持株会社Aが通算親法人、日本子会社B・Cが通算子法人として、3社でグループを形成できます。外資系企業が日本に中間持株会社を置き、その傘下に複数の事業子会社を持つ場合がこれに該当します。
いずれのケースも、外国法人自体は通算グループのメンバーには含まれません。グループ通算制度はあくまで内国法人(日本法人)間の制度です。
損益通算の仕組み
基本的な計算方法
グループ通算制度の中心機能は、グループ内の黒字法人と赤字法人の損益を通算することです。
具体的には次のように機能します。
- 所得事業年度(黒字法人) は、グループ内の欠損金合計額を各法人の所得金額の比で按分した「通算対象欠損金額」を損金に算入する
- 欠損事業年度(赤字法人) は、グループ内の所得金額合計額を各法人の欠損金額の比で按分した「通算対象所得金額」を益金に算入する
この結果、グループ全体の所得に対して課税されることになります。
計算例
| 法人 | 通算前所得(欠損) | 損益通算 | 通算後課税所得 |
|---|---|---|---|
| 日本子会社A(通算親法人) | 6,000万円 | ▲1,800万円(損金算入) | 4,200万円 |
| 日本子会社B(通算子法人) | 4,000万円 | ▲1,200万円(損金算入) | 2,800万円 |
| 日本子会社C(通算子法人) | ▲3,000万円 | 3,000万円(益金算入) | 0円 |
| グループ合計 | 7,000万円 | 7,000万円 |
【計算式】 – A:通算前欠損合計3,000万円 × 6,000/10,000(所得比)= 1,800万円(損金算入) – B:通算前欠損合計3,000万円 × 4,000/10,000(所得比)= 1,200万円(損金算入) – C:3,000万円(※) × 3,000/3,000(欠損比)= 3,000万円(益金算入)
(※)通算前所得合計(10,000万円)が通算前欠損合計(3,000万円)を上回るため、欠損法人への配分は欠損金額の合計額(3,000万円)が上限となる。
グループ通算制度を適用しない場合、A・Bの課税所得合計は10,000万円となります。グループ通算制度の適用により3,000万円が通算され、グループ全体の課税所得は7,000万円に圧縮されます。
遮断措置
グループ通算制度では、期限内申告書に記載された各法人の所得金額・欠損金額を基礎として損益通算を計算します。その後、税務調査等により一法人の所得金額が修正された場合も、原則として他の通算法人の申告には遮及しない仕組みとなっています(法人税法第64条の5第5項)。
ただし、遮断措置を適用することで法人税の負担を不当に減少させると認められるような場合には、税務署長が全体再計算を行うことができます(同条第8項)。
欠損金の通算
グループ通算制度では、当期の損益通算に加え、過年度の繰越欠損金についても、グループ内で活用する仕組みがあります。
繰越欠損金の取扱いは、グループ通算制度の開始・加入前に生じたものか開始・加入後に生じたものかによって大きく異なります。
通算前(開始・加入前)に生じた欠損金
通算制度の開始・加入前に生じた繰越欠損金は、時価評価対象法人かどうかによって取扱いが異なります(時価評価の判定については後述します)。
① 時価評価対象法人の場合
開始前の繰越欠損金は全額切り捨てとなります。
② 時価評価除外法人(時価評価が不要な法人)の場合
| 要件 | 取扱い |
|---|---|
| 要件充足(支配関係5年超、または共同事業性あり等) | 特定欠損金として引継ぎ可。ただしその法人自身の所得を上限として控除(グループ内での共有は不可) |
| 要件非充足(支配関係5年以内かつ共同事業性なし) | 開始前の繰越欠損金が切り捨てとなる場合あり |
グループ通算制度の適用前に多額の繰越欠損金を抱えている法人がある場合は、制度開始後にその欠損金が引き続き使えるかを事前に確認することが重要です。
通算後(開始・加入後)に生じた欠損金
通算制度の開始・加入後に生じた繰越欠損金は非特定欠損金として取り扱われ、損金算入限度額をグループ全体で共有して控除することが可能です。通算前の欠損金(特定欠損金)がグループ共有できないのと対照的に、通算後に生じた欠損金はグループ全体で有効活用できます。
損金算入限度額(50%制限)
単体申告と同様、グループ通算制度においても原則的には欠損控除前所得の50%相当額が損金算入限度額の上限となります。
グループ通算制度の特徴として、この損金算入限度額はグループ全体で共有されます。通算グループ内の全法人が中小法人等または新設法人に該当する場合に限り、100%控除が認められます。
単体の場合の欠損金の繰越控除の詳細については、欠損金の繰越控除・繰り戻し還付|外資系企業が押さえるべき実務ポイントもあわせてご参照ください。
適用開始・加入時の時価評価
グループ通算制度の開始または新法人のグループ加入に際し、一定の法人は保有する一定の資産の時価評価を行い、税務上含み益・含み損を強制的に計上することになります。
適用開始時の時価評価
グループ通算制度の適用を開始する際、以下の要件を満たす法人については時価評価が不要ですが、その他の法人は時価評価が必要となります。
- 通算親法人:通算子法人となる法人のいずれかとの完全支配関係が継続することが見込まれていること
- 通算子法人:通算親法人との完全支配関係が継続することが見込まれていること
すなわち、グループ内の資本関係が変わらない見込みであれば、時価評価の対象にはなりません。外資系グループが既存の100%子会社を対象にグループ通算制度を開始する場合、通常はこの要件を満たすケースが多いと考えられます。
加入時の時価評価
既にグループ通算制度を適用中のグループに新たな法人が加入するときは、以下に該当する場合は時価評価が不要です。逆に要件に該当しない法人については時価評価が必要となります。
- グループ内新設法人:通算法人が親による完全支配関係がある法人を新たに設立した場合
- 適格組織再編と同等の要件に該当する場合等
グループ外から新たに法人を買収してグループに加入させる場合は、これらの要件を満たさないケースも考えられ、時価評価の要否を慎重に確認する必要があります。
離脱時の取扱い
離脱時の時価評価
グループ通算制度の開始・加入時に時価評価が必要となる場合があるのと同様に、通算法人がグループから離脱(通算承認の失効)する際にも、一定の場合に保有資産の時価評価が必要となります。
対象となる主なケースは、離脱法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれない場合などです。外資系企業が日本法人を売却・清算してグループから離脱する場面では、離脱法人における時価評価の要否を事前に確認する必要があります。
通算子法人株式の帳簿価額調整(投資簿価修正)
グループ通算制度では、通算子法人がグループから離脱する場合、通算親法人が保有する当該子法人株式の帳簿価額が離脱直前の子法人の簿価純資産価額に合わせて修正されます。
この規定は、グループ通算制度の下で子法人が稼得した利益や損失に対し、子法人株式の譲渡を通じた二重課税や損失の二重控除を排除することを目的としています。子法人を売却する際の税務上の株式譲渡損益の計算に大きく影響するため、日本法人の売却・撤退を検討する際は事前の確認が必要です。
中小企業向け措置が適用されなくなる点(大通算法人)
グループ通算制度適用に際して、外資系企業が特に注意すべき点が中小企業向け措置の制限です。
通算グループ内のいずれかの法人が資本金1億円超の法人等に該当する場合、そのグループ内の全法人(大通算法人)について、以下の中小企業向け措置が適用されなくなります。
| 制度 | 中小通算法人(全社が中小法人等)の取扱い | 大通算法人(いずれかが資本金1億円超の法人等)の取扱い |
|---|---|---|
| 法人税の軽減税率 | 年800万円以下の所得:15% | 全額23.2% |
| 欠損金の繰越控除 | 所得金額の100%控除可 | 所得金額の50%まで |
| 欠損金の繰戻し還付 | 利用可 | 原則不可 |
外資系企業の日本子会社は、外国法人の100%子会社であることが多く、その資本金規模等によっては資本金1億円超の法人等に該当するケースも考えられます。また、海外親会社等の資本金が5億円以上であり、100%の資本関係がある場合にも大通算法人に該当します。グループ通算制度の適用を検討する際は、このメリット制限も含めて費用対効果を試算することが重要です。
他の税制との関係
過大支払利子税制
過大支払利子税制の2,000万円の適用免除基準は、グループ通算制度を採用している場合には、個社単位ではなくグループ全体で判定します。グループとして支払利子が2,000万円を超える場合には、全通算法人で制度の適用の有無を検討する必要があります。
詳細は「過少資本税制・過大支払利子税制」をご参照ください。
外国税額控除
外国税額控除の控除限度額の計算において、グループ通算制度を適用している場合は、各通算法人の控除限度額の計算上、グループ全体の法人税額や所得を計算要素に含める点で単体申告と異なります。グループの損益通算により法人税額が大きく変動する場合、外国税額控除の活用可能額にも影響が生じるため注意が必要です。
詳細は「外国税額控除とは|外資系企業が直面する二重課税の解消と計算・申告の実務」をご参照ください。
適用の開始・取りやめ手続き
適用開始の手続き
グループ通算制度の適用を受けるためには、グループ内の全法人が国税庁長官の承認を受ける必要があります。
申請書は通算親法人および通算子法人となる全法人の連名で、通算親法人の最初の通算事業年度開始日の3月前の日までに、通算親法人の納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出します。
3月前というのは、年度始まりが4月1日の法人であれば、前年の12月31日までに申請が必要ということです。検討から申請まで十分な準備期間を確保する必要があります。
事業年度
親会社と子会社の事業年度が異なる場合(例えば12月決算と3月決算など)、子会社の法人税の申告上は事業年度の特例により親会社の事業年度に合わせて計算・申告することになります。
この場合、決算期(会計上の事業年度)と税務申告上の事業年度が一致しない状態が生じ、申告実務の事務負担が大幅に増加します。そのため、特段の事由がない限り、グループ通算制度への移行前に事業年度変更を行い、親会社の事業年度と一致させておくことが望ましいです。
制度の取りやめ
グループ通算制度の取りやめには、原則としてやむを得ない事情がある場合に限り、国税庁長官が承認した場合に可能となります(通算親法人の解散等を除く)。単に単体納税のほうが税負担が軽減されるなどの理由で通算をやめることはできないため、制度開始前に十分な検討を行うことが重要です。
外資系企業が制度適用を検討する際のポイント
グループ通算制度は、すべての外資系企業に有利に働くわけではありません。適用前に以下の点を試算・確認することをお勧めします。
メリットが大きいケース
- グループ内に安定して黒字を出す法人と赤字が続いている法人が併存している
- 新規事業や立ち上げ期の法人が赤字で、他の法人の黒字と通算できる
- グループ全体での税額控除(試験研究費等)の有効活用が見込まれる
メリットが限定的・注意が必要なケース
- 全法人が安定して黒字であり、損益通算の恩恵が少ない
- グループ内に含み損を抱えた資産を多く持つ法人があり、時価評価で課税が生じるリスクがある
- 適用開始による中小法人特例の喪失(軽減税率15%→23.2%)のデメリットが大きい
- 各法人の決算期が異なり、統一に伴うコストが高い
まとめ
グループ通算制度のポイントを3点に絞って整理します。
① 損益通算・欠損金通算による税負担軽減 グループ内の黒字法人と赤字法人の損益を当期に通算できるほか、過年度の繰越欠損金についても非特定欠損金はグループ全体で共有して活用できます。複数の日本法人を抱える外資系グループにとって、税負担軽減の有力な手段となりえます。
② 開始時の時価評価・欠損金の切り捨て等がデメリットになる可能性 制度の開始・加入時には一部の法人で保有資産の時価評価が必要となり、含み益がある場合には課税が生じます。また、要件を満たさない場合には開始前の繰越欠損金が切り捨てられる可能性があります。さらに、グループ内に資本金1億円超の法人等がいる場合は、軽減税率・欠損金100%控除等の中小法人特例がグループ全社で適用できなくなります。制度開始前に自社グループへの影響を十分に試算することが重要です。
③ 一度開始すると原則としてやめられない グループ通算制度の取りやめには国税庁長官の承認が必要であり、単に税負担が重くなったという理由では認められません。制度を開始する前に、複数年にわたるシミュレーションを行い、慎重に検討することが必要です。


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